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blog文化の日に寄せて感動を呼ぶ、世界のクリスマス展
■日毎に秋も深まり、南天の実が真っ赤に色付きました。先月27日夕刻から、6号館の「おもちゃの20世紀」の撤収作業に続き「世界のクリスマス展」の展示作業が始まりました。いずれも1000点を超える膨大な数量の撤収と展示だけに連日夜遅くまで作業が続き、いつものことながらスタッフの労に心から感謝です。展示内容は回を重ねるごとに素晴らしいものになり、本日、正式にオープンしましたが来館者からは早速、「素晴らしい展示に感動しました」との言葉が寄せられました。
■これほどの内容のクリスマス飾りの展示ができるのは、1985年に北欧各国を訪ねて以来、クリスマスの季節に何度もヨーロッパ各地を訪ね、貴重な資料が収集できたからです。それに時期に恵まれ、現在では収集不可能な貴重な資料が入手できたことで、そのひとつがイタリアのセビー社の商品です。木製の可愛いツリー飾りや降誕人形が作られていましたが同社は1999年に廃業しました。
■さらにアフリカや中南米のクリスマス飾りも、東京の民芸品輸入会社の協力で入手できたものが多いのですが、多くが廃業され、入手ルートが閉ざされました。しかし現在までに4000点を超える貴重な資料の入手に成功。来館されたドイツ人の専門家もこんなコレクションは見たことがないと驚かれました。クリスマスにかかわる世界各地の飾りを収集するという視点と時期に恵まれたお陰で、世界的にも評価されるコレクションの構築に成功したのです。
■今回の展示も尾崎学芸員の指揮のもと、6号館西室では世界のクリスマス飾りとして、各国のキリスト降誕人形、キャンドルスタンド、サンタクロース、クリスマス菓子、ツリーの飾りなどが展示され、東室はヨーロッパものが地域毎に並び、本当に見応えのある展示になりました。
■ここ数年、11月に入ると「文化の日に寄せて」と題して、博物館にかかわる私の思いをこの欄に書いてきましたが、展示替えや原稿執筆などに追われて今になりました。昨年は博物館の使命についてと題し、日本学術会議の「博物館の危機を乗り越えるために」の声明について書き、一昨年は「文化遺産を守るには」として、当館とも交流があった個人が収集した資料を基に設立され,当館と同じくサントリー地域文化賞を受賞した福山市の日本はきもの博物館と鶴岡市のアマゾン民族博物館が、入館者の大幅な減少により閉館されると書きました。
2館のその後は、日本はきもの博物館と日本郷土玩具博物館は経営母体の財団法人遺芳文化財団が2013年11月30日に解散。施設と資料は福山市に寄贈され、本年7月に福山市松永はきもの資料館とローカル的な名称になって開館されました。残念なのは、30数年の歴史を刻んできた2館の名が消え、運営は地域の団体に委託。学芸員は不在に、HPもなくなり、開館日も金・土・日のみになったことです。鶴岡市のアマゾン民族博物館は昨年3月に閉館後、資料は国立民族学博物館や東京の国立科学博物館でも展示され、大勢の来館者を迎えて高い評価を得たと聞きます。閉館後も資料は4年間、同館で保存されますので、館長の山口吉彦氏は最善の道を模索されていると思います。
■私立博物館の多くが公立の博物館が構築することができなかったユニークなコレクションを所蔵します。三重県鳥羽市でも石原義剛氏が1971年に海の博物館を設立。木造船など海に関する5万余点の貴重な資料を保存されています。氏は昨年、三重県で開催された全国博物館大会で「博物館の役目である資料収集と保存の認識が少ない。現在の私立博物館は国や行政に見捨てられて漂流している。国や行政自身が自国の文化の存在を忘れているのではないか。」と述べられていますが、確かに優れた文化遺産を所蔵する私立博物館に対する支援がないのが不思議です。来館されたアメリカ人から「我が国なら、一個人がこれほどの大きな仕事をして成果を上げれば社会が応援する。日本は不思議な国ですね。」と言われた言葉が心に残ります。当館が所蔵する資料の数々が文化遺産として社会に認知され、散逸させずに後世に遺すにはどうすべきか、模索する日が続きます。
(館長・井上重義)
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