日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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館長室から 2013.01.01

蒐集を始めて50年、節目の年です

新年おめでとうございます。良き新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。
今年は私にとって感慨深い節目の年です。といいますのは郷土玩具の収集を始めて50年になるからです。動機は何度か申しあげてきましたが、昭和38年、24歳のときに通勤帰りに立ち寄っていた書店で偶然、朝日新聞記者だった斎藤良輔氏の『日本の郷土玩具』(未来社昭和37年刊)を手にしたのがその後の私の人生を大きく変えたのです。

『日本の郷土玩具』(昭和37年未来社)

その本には「日本の古いおもちゃー郷土玩具は、この国土に芽生えて花開いた、われわれ民族のかわいらしい文化財である。その花々が色あせて散ってしまわないうちに、誰かが、その生い立ちや実情を調べて記録しておくことが大切ではあるまいか」と記されていました。巻末に全国各地の郷土玩具製作者の名前があり、それを契機に仕事の非番日や休日を利用して兵庫県内から関西各地へ、さらには全国へと収集や調査にでかけました。

その報告を当時、斉藤良輔氏が編集されていた日本郷土玩具の会の機関誌『竹とんぼ』に頻繁に送っていました。氏からは温かな励ましやアドバイスを何度もいただきました。昭和59年に出版された増補版『日本の郷土玩具』のあとがきには、「独力で日本玩具博物館を設立された井上重義氏はこの本との出会いから生涯を郷土玩具の収集保存にささげるべく決意をしたというのである。著者としては、過分の光栄であり、感激である。」と記して下さいました。さらに平成6年の当館開館20周年記念誌には『「日本(一)玩具博物館」賛歌』と題してメッセージを寄せてくださり、「真の博物館機能を備えた当「日本玩具博物館」は、日本を代表する文化施設として、海外の一流博物館と肩を並べるほどに成長しました。創立20周年の晴れの日を迎えることができました日本玩具博物館が、これからさらに世のため、人のために力強く、明るく役に立っていくことを祈ります。その対策としては、館内見学の来館者数を増大するため、現在以上の収蔵資料の増加を図り、展示内容に学問的魅力を加えた着想運営に努力すること。来館のお客さんの心を楽しくさせることです。それから全国各地から出品依頼の施設、企業などとの契約数をさらに増やすことに努力していってください。」とアドバイスもいただきました。

さらに幸いだったのは収集を始めてまもなく、神戸に熱心な郷土玩具の収集家がおられると紹介いただいたのが灘高校国語教師の橋本武先生でした。ご自宅に何度もお伺いし、一緒に収集の旅にも出かけ、貴重なアドバイスをいただきました。そして昭和56年には神戸新聞出版センターから兵庫県内の郷土玩具をまとめた『兵庫の郷土玩具』を出版しました。先生との出会いがなければ単に趣味の世界で終わっていたと思います。

収集する過程で解ったのは郷土玩具が文化財として評価されることなく、消え行くものが多いことでした。とりわけ昭和40年頃は古いものに光が当たらず、価値のないものとして多くのものが地元の人からも忘れられ、消えようとしていました。時代に流されて消え行く運命にあった「子供や女性の文化遺産」を収集し後世に伝えるのが私に課せられた使命だと考えるようになり、その考えをもとに50年間頑張ってきたのです。

博物館を開設してから38年の歳月が流れました。その方針と継続は大きな力に繋がり、私自身でさえも思いもよらなかった数多くの特筆すべきコレクション群の形成に成功しました。世界の玩具と人形、ちりめん細工、神戸人形、御殿雛など。他には例がない国内第一級のコレクションであり、当館が収集していなければ後世に遺ることなく散逸していたと思います。現在も追い求めているテーマはいくつもあります。そのひとつの羽子板は昨年、明治末期の福岡県産の押絵羽子板や福島県須賀川の押絵羽子板を購入。さらに雛人形も幕末期に江戸から京都へ古今雛の指導に来た玉翁作の雛人形を購入しました。しかし当館のコレクションが大切な文化遺産だとして社会的な評価を受けているとは言い難いのです。本来ならば、社会が守るべき大切な文化遺産であることを一人でも多くの方に認識していただく活動が、今後は必要だと考えています。

入手した須賀川の押し絵羽子板

収蔵品には大勢から託された資料が多くあり、ここ数年は驚くほど貴重な資料が続々と集まってきます。昨年は1年間で2000点を超える受贈資料がありました。名古屋の伊藤三朗様から中国民間玩具約1000点の寄贈があったことは<ブログ「館長室から」2012年4月26日>でも報告しましたが、暮れの12月にも昭和30~40年代収集の郷土玩具約1000点の寄贈を受けました。収集者は明治39年生まれで平成2年に亡くなられた関東在住の社会的な地位がある方でした。送られてきた資料の中に偶然にも『日本の郷土玩具』があり、巻末の作者のリストには収集品に〇が付けられていました。寄贈者の了解を得ましたので、一部は日本文化を紹介するために韓国の博物館に寄贈する予定です。

今年も当館所蔵品の館外での展示が、春に北九州市立小倉城庭園、夏に青森県八戸市立博物館であります。出版物も文溪堂から『ままごと道具』、日本ヴォーグ社からちりめん細工関係の執筆依頼を受けています。課題の財団法人化も今年、一般財団法人の申請をする予定です。膨大な収蔵品を一人でも多くの方にご覧いただくための館外展や提携館の検討など問題が山積していますが、経営環境は厳しいものがあり、この膨大な資料を社会の財産としてどのようにして後世に伝えていくべきかが最大の課題です。皆様のお知恵をぜひお借りしたいと考えています。
本年もよろしくご指導とご支援をお願いいたします。(井上重義)

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