被災地の文化財救済活動から | 日本玩具博物館

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館長室から 2011.04.01

被災地の文化財救済活動から

この度の東北地方太平洋沖地震は千年に一度といわれるほどの大災害になり、思いもよらない大惨事に言葉もありません。被災地の皆様には心からお見舞い申し上げますと共に一日も早い復興を願っています。

当地でも今から16年前の1995年に、阪神淡路大震災が起こりました。当館も震度4~5の揺れがあり、数多くの展示資料が倒れ、その資料整理に1週間余りもかかりました。幸いにも破損したものは少数でしたが、来館者が激減し、この先どうなるのだろうかと大きな不安を覚えたことを思い出します。

被災地での活動は何よりも人命救助が優先します。阪神淡路大震災でもそれが一段落した2月になると、兵庫県教育委員会などが学芸員やボランティアを組織して被災地から文化財を救出する文化財レスキューを行なうなどの情報が入ってきました。しかしその対象は文化財として指定された資料が中心で、認知されていない資料は救済されないとの情報も届き、玩具や人形を収集保存し後世に伝えることを使命に活動を続けてきた当館では、何とかそれらを救済出来ないだろうかと検討を続けていました。しかし私自身は当館が個人経営の私立博物館であることから、変な誤解を招いてもとの杞憂から、その実行に躊躇していました。

4月に入ってまもなく、当館友の会会員で神戸市須磨区の自宅が全壊した方が両手に人形を抱えて来館されました。そして被災地では「仮設住宅への転居や家の整理のため、嵩張るうえに気を遣う雛人形の処分に困っておられる方が大勢あり、粗大ごみ置場に出された雛人形を沢山見ました。それを助けられるのはこの博物館です。館長さん、人形たちを助けて下さい」と涙ながらに切々と話されたのです。私は行き場を失った雛人形や五月人形の救済に取り組むことを決意し、4月中旬に新聞社にその由を連絡しました。小さな記事ですが各紙に紹介されると、それを待っていたかのように多い日には段ボール箱で20箱、最終的には約250組400箱を超える資料が続々と届きました。そして荷物の多くには、「こちらの博物館だったら安心してお任せできます」との手紙が添えられていました。寄せられた膨大な資料は学芸員の手で丹念に整理され記録されました。ただ、すべての資料の保存は困難なために寄贈者の了解を得て、近隣の施設やドイツ、アメリカ、ブラジル、中国(上海)などの海外の博物館施設に震災の支援活動へのお礼の心もこめて再寄贈しました。

被災地の雛の受け入れ台帳

翌年の1996年春には「被災地からの雛たち」と題して、寄せられた雛人形の特別展を開催しました。明治から昭和までの60組の雛人形たちは、阪神間の雛人形の歴史が総覧できる展示だと好評でした。寄贈者に案内を差しあげたところ、初日に大勢ご来館下さいました。近くの神社から神職を招いて雛供養を行いましたが、久しぶりの人形との再会に展示会場は暖かな雰囲気に包まれました。そして寄贈者からは、「辛いことばかりの1年でしたが、美しく蘇った懐かしい人形に再会し、心に春が来ました」「私たちの町はひどく壊れてしまいましたが、ここには祖母の雛人形があり、母の市松人形が仲間たちと住んでいます。この博物館があるこの町は私の故郷になりました」と、感謝の言葉をいただきました。
この被災地からの雛人形は毎年開催の雛展で展示しており、今年は4組が並んでいます。

神戸から届けられた大正期の御殿雛(雛展で展示中)

当館の節句人形の引き取り活動は、1999年発行の開館30周年記念誌に尾崎学芸員が詳しく報告しています。その中で活動を通じて得たものは-博物館が「私たちの町の収蔵庫」として機能することのすばらしさである。あそこには「あの」資料があり、大切にされ、次代に渡されていくのだという実感が人の心を支え、やがて町のアイデンティティを形成していく。博物館の収蔵活動の意味について、私たちは被災地の人々と人形たちからそう学んだのである。-と総括していますが、私もそれが博物館にとって、大切な仕事だと認識し、心に深く刻みました。

芦屋から届けられた勝手道具(雛展で展示中)

東北地方太平洋沖地震での文化財の救済活動は、これから本格化するものと思います。このたびの災害は阪神淡路大震災の時とは違って、地震だけでなく大津波という想像もつかない壊滅的な被害であり、範囲も広範で文化財の保護救出はより困難ではないかと想像しています。文化財の救済活動は早いほうがその効果も大きいと思います。阪神淡路大震災の時も、芦屋の邸宅から着物などが持ち去られたとの噂話を聞きました。文化財として認定されたものだけでなく、歴史や地域の特色を表す生活文化財なども救済されることを心から願っています。
遠方の地ではありますが、私たちがどのような協力が出来るのかスタッフとともに話し合っています。

(館長・井上重義)

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