日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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館長室から 2009.11.01

こけしのふるさとを訪ねて

当館の古くからの友人であるドイツ在住のへルベルト古本ご夫妻から、訪日する機会に東北のこけしの産地を訪ねたいとのご意向をお聞きして、それではと去る10月23~25日まで東北のこけしの産地を案内しました。ヘルベルトさんには1994年に旧東ドイツ領の木工玩具の産地ザイフェンなどを案内いただき、また貴重なドイツの木製玩具の入手にご協力いただいたご縁もあり、少しでもご恩返しができればと出かけました。

私にとって、こけしの産地訪問は1985年以来24年ぶりでした。以前から後継者がいないなど、こけしを取り巻く状況の厳しさを聞いていましたので、この機会にこの目で現状を確かめたいとの思いもありました。
2泊3日という限られた日数では、東北各地の総てのこけし産地を巡ることは不可能で、宮城県と福島県の主な産地をレンタカーで巡りました。訪問先は仙台駅-カメイ記念展示館-秋保工芸の里-鳴子温泉(泊)-日本こけし館-宮城蔵王こけし館-遠刈田温泉-弥冶郎こけし村-白石(泊)-白石蔵王駅構内こけし展示場-原卿のこけし群西田記念館-土湯温泉-福島駅でした。

訪問先で目にしたのは、こけし業界を取り巻く予想を超える厳しい状況でした。昭和50年代~60年代初めのこけしブームが去った後、こけしの需要は低迷して売れず、ほとんどの産地でこけしの値段がここ30数年間変わっていないと聞かされました。確かに1本1本手づくりされた高さ6寸(18cm)のこけしが1500~2000円で売られ、これでは材料費や工賃などの経費を考えると後継者が育たないのも無理はないと思いました。またこけしコンクールなどで内閣総理大臣賞や文部科学大臣賞を受賞した工人の作品も、受賞したからといって特別な値段は付かないようです。

こけしのメッカ的な存在であった鳴子温泉は、行楽のシーズンというのに街中を散策する人の姿は少なく、温泉街も空き家が目立ち、かつて訪れたときとは大きな落差がありました。遠刈田でも、こけし工人の工房が連なる新地こけしの里も、土曜日の午後というのに訪ねる人の姿はなく閑散としていました。
こけしの展示施設である日本こけし館(昭和50年開館)と蔵王こけし館(昭和59年開館)は土曜日でもあり、それなりの入館者で、運営は地元のこけし組合が委託されていると聞きました。しかし学芸員の配置はなく、気になったのはこけしの退色が進んでいることでした。貴重な資料が取り返しのつかない事にならない内に、照明の専門家などの意見を聞くべきではないでしょうか。
弥冶郎こけし村は展示施設と数軒の工人の工房で構成されていて平成5年に開館。展示施設の入館料無料はここだけで、工房では若い工人さんが仕事に励まれている姿を目にしました。
原卿のこけし群西田記念館は吾妻連峰の山麓に位置し、教会を中心に洋風の建物群で構成されたアンナガーデンの一角にあり平成7年の開館です。財団法人東邦銀行文化財団が運営。学芸員を置き、年間3回企画展を開 催。第44回企画展として「蔵王系こけし」が開催されていました。こけしの理解や評価を高める為の活動がなされており、館内からの吾妻連峰の景色も素晴らしく、こけしの展示施設では最高でした。
最後の訪問地は土湯温泉。街の中にこけしを展示する洒落た画廊喫茶や展示施設があり、街角にはこけしを模った提灯が吊るされ、こけしが街の中に溶け込んでいました。また東北各地の若手工人を纏める人の存在もあり、これまでの産地の現状を見て暗い気持ちに覆われていたのが、この地に来てこけしの将来に明るさを感じ、ほっとしました。

3日間の旅を通して気になった点がいくつかあります。ひとつはこけしの展示施設のどれもが洋風の建物だった点です。蔵王こけし館ではタイからの観光客がこけしの絵付け体験をされていました。これからは海外からの観光客が増えると考えられ、そのためにも東北の伝統的な人形を収蔵する施設は、風土にあった和風の建物が必要ではないでしょうか。また繁華街や工人の住まいと離れたところに展示施設が造られたのも、工人の工房を訪れる人が減った要因であり、今後の大きな教訓です。
伝統を守るだけでこけしが画一化した産地は、確かにこけしの魅力が乏しくなっていると思います。形式や描彩などの伝統を守りつつ、今の人々にも受け入れられる工夫も必要ではないでしょうか。土湯ではその点、バラエティに富んだ楽しいこけしを見受けました。またこけしに使われている塗料は、黒と赤は退色が少ないのですが緑や黄色は退色が早く、古いこけしの多くは黒と赤だけが残っています。こけしの美しさを伝えるためにも、今と変わらぬ色調で退色しない塗料の研究が必要ではないでしょうか。
伝統こけしはこれからもしばらくは厳しい時代が続きそうですが、工夫次第で人々の心を捉えられると思うのです。(井上重義)

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