ようこそ、お雛さま | 日本玩具博物館

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学芸室から 2012.03.07

ようこそ、お雛さま

桃の節句、雛まつり―――皆さんのご家庭では、3月3日にこの行事を終えられたでしょうか。あるいは、桃も桜も満開に近くなる一ヶ月遅れの4月3日を待っておられるで しょうか。私どもの博物館がある播磨地方では、4月3日にお祝いされる家庭も少なくありません。これは、その昔(江戸時代から明治時代にかけて)、旧暦でお祝いしていた頃の名残なのです。そう、きちんと旧暦に合わせて桃の節句を迎えるなら、今年は、あと2度チャンスがあります。1度目は、3月24日(旧三月三日)、2度目は4月23日(閏三月三日)です。今年の太陰暦では、一年の日数のずれを調整するための閏月が三月に設定してあるからです。

ここ数日のうちに、玩具博物館は、あちらこちらから古い時代のお雛さまをお迎えしました。結婚や転居など、ご家庭の事情によって、傍に置けなくなったものを寄贈いただいたり、博物館独自のルートで購入をしたり・・・。井上館長が車を飛ばしてお雛さまのお迎えに出かけ、お引き取りさせていただいたものもあります。今、時代の埃をまとった雛箱を開け、順番にお入れしている最中です。雛人形を手元に迎えるたびに思うことですが、人形には、工芸的な美とは別に、それぞれ特別のムードのようなものがあります。持ち主に大切にされていた人形と、長く見向きもされなかったものとでは、まったく違うムードがあるのです。誇りに満ちて明るいムードの人形に出あうと嬉しくなり、その逆であれば、お手入れを一生懸命にしてやろうと思います。正しく大事に扱うほどに、人形は、本来もっている愛らしさを見せてくれるようになります。
それでは、収蔵資料としての登録を終えたお雛さまのうち、ここで、ふたつ、日本玩具博物館蔵となった美しい資料をご紹介したいと思います。

ひとつ目は、明治12年製の屏風飾りの古今雛です。人形の頭をぬいてみると、花押入りで、「玉翁」の署名がありました。つまり頭は、幕末から明治時代にかけて活躍した名工・玉翁の作。玉翁は、江戸の「古今雛」の様式を京へ伝えた人形師として知られています。細筆でこまかな埃や汚れをさらい、結髪をやさしく整え、収納されているうちについた“くせ”を、傷めないよう注意しながら整えます。

明治12年製の古今雛(登録No.12-A004)

・・・・・・・・・・・・さて、資料用に撮影をしようと、男雛に烏帽子をつけ、女雛には玉が豊かにさがる天冠をつけて、しばし眺めました。なんと美しいお雛さまでしょうか。静かな表情が見る角度によって艶やかにも清楚にも、また柔和にも厳かにも見えるから不思議です。

明治時代前期ぐらいまでの雛人形のやわらかい雰囲気は、衣装の色調にも関係があるようです。例えば女雛の赤い袴や唐衣に使われる絹織物について、かつては紅花で染めた朱や橙に近い赤であったところ、明治中頃になってヨーロッパから化学染料が入ってきたことで、それは強烈なスカーレットで染めたものになってしまいます。今の雛人形の衣装や緋毛氈の赤に接すると、目の前がぱっと華やかになりますが、紅花染めの赤は、もっと品が良く、見るものをほっとさせる力があるように思えます。

登録作業(この古今雛の資料ナンバーは、12-A004)の後は、形を整えながら梱包して、いい状態で一年ほど休ませてやろうと思っています。来春、展示するときには、もっと綺麗になっているはずです。人形は、きちんと梱包、丁寧に収蔵・・・を繰り返す中で、“眠りくせ”がとれていくからです。


もうひとつは、大正時代の源氏枠飾りのお雛さま。「源氏枠飾り」という形式は、江戸時代後半に京阪地方に発し、屋根のある御殿飾りと並んで人気を博しましたが、昭和初期頃に、急速に姿を消していったものです。

寄贈者によれば、100年ほど前、大阪の北浜の家庭で飾られていたものとか。その頃の様子を撮影したお写真も頂戴いたしました。持ち主だったご婦人からはお心のこもったお手紙も添えられていました。戦争中は、遠い疎開先へと荷車で運んで傍に置き、またその後、あちらこちらへ転勤、転居をしても、お雛さまはずっと一緒であったと綴られていました。長い間、持ち主の手元で愛しまれてきたお雛さま。黒漆塗りに白い菊花文様が描かれた源氏枠御殿(屋根を取り払った形式)は、高さ60センチ、横幅約1メートルあります。少しの傷みは、補修の上手な井上館長の手が入り、綺麗に組み上がりました。

内裏雛、三人官女、五人囃子、随身、仕丁。箪笥、長持、鏡台、針箱、台子道具(お茶の道具)、懸け盤(本膳料理をもる器)、湯桶、飯桶、重箱、高杯、菱台、火鉢、花車、桜橘の二樹・・・・・・。人形も諸道具も賑やかに揃っています。今一度、風を通したく思い、登録作業(この源氏枠飾り雛の資料ナンバーは12-A010です)を完了した昨日、ランプの家のお座敷にお披露目を兼ねてお飾りいたしました。そのお座敷には、既に、大正時代の御殿飾りをひと組、展示しております。阪神淡路大震災の年、西宮市に住まわれていたご婦人から寄贈を受けたお雛さまです。大正時代の御殿飾りと源氏枠飾りが揃い、ランプの家のお座敷がとても華やかになりました。

ランプの家に展示した大正時代の源氏枠飾り(登録No.12-A010)

玩具博物館に大切なものをお寄せ下さった方々に、心より御礼申し上げます。これをご縁に、今後とも親しくお付き合い下さいますようお願い申しあげます。ご来館の皆様には、4月10日まで展示いたしておりますので、6号館展示室の「江戸と明治のお雛さま」と合わせてご覧いただき、こちらでは大正時代のクラシックな風情を味わって下さいませ。

(学芸員・尾崎織女)




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