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blog牛のおもちゃ、日本・スイス~世界の動物造形展より~
■数年前の夏、日本海に浮かぶ隠岐島の久見地区に伝承される星まつりを見学に出かけたのですが、その折、隠岐郷土館で素朴な郷土玩具に出合いました。「ばっこ」と呼ばれる牛の玩具で、カエデやツバキやマツや…身近にある様々な木の枝分かれしている部分を切り取って作られます。隠岐の島では古くから闘牛の催しが盛んに行われてきましたが、この玩具は、角に見立てた枝の部分に紐をかけ、二頭をからみ合わせると、双方から引っ張り合って角を突き合わせます。「男の子が、大人が行う牛突きのまねごとをして遊ぶもの」と説明にありました。ああ、ここでもこんなに素朴で味わいのある玩具が作られていたか、と嬉しくなりました。
■枝分かれした木を角に見立てて作る闘牛の郷土玩具は、新潟県小千谷市の「木牛」が有名ですが、岩手県奥州市にある“牛の博物館”にも「べご」と呼ばれる素朴な牛の玩具が展示されています。12年前の夏、牛の博物館のご協力を得て、岩手郡葛巻町に住む伝承者・近藤清助さん(当時81歳)に「べご」を作っていただきました。葛巻や岩泉地方は、南部牛の産地で、「べご」は、小学校に入学する頃の男の子の遊び道具。現在70歳以上の方々には、みんなこの玩具で遊んだ思い出があるといいます。枝をつけたアカマツの木を削り、藁縄を鼻につけてひっぱりまわす単純な遊びですが、可愛がって大事に牛を飼う父親の姿を真似たものと伝わります。
平成16年の中越大地震によって闘牛行事は一時中断していたが、地元の方々の熱意によって再開している。
アカマツの木を切り、藁縄をつけた素朴な玩具。牛を飼う父親の姿を真似、縄を引っ張りまわして遊んだものという。
■いかがでしょうか、隠岐の島の「ばっこ」、小千谷の「木牛」、南部の「べご」―――これらは、離れたところに暮らす三兄弟のように思われませんか?
■そして、この三兄弟は、海をわたり、遠くヨーロッパにも兄弟をもっているのです。スイスのバーゼル玩具博物館には、木の枝を角に見立てて作られる牛の玩具が展示されています。
1900年代初頭のもので、鼻縄を引っ張ったり、角を突き合わせたりして遊ぶそうです。展示室でこの玩具に初めて出合った時には、“うわぁっ、小千谷の「木牛」に似ている!“と驚きました。牛を生活の糧とし、大事に愛して共に暮らす日々の中で、子どもたちが工夫をこらして、これらの玩具を作り出したことが想われました。その心は、地域を越え、国境も越えてつながりあっているようです。
■動物をテーマにした民芸的な玩具を一堂に集めてみると、国が遠く離れているのに造形的に瓜ふたつの玩具を発見して驚かされます。牛に限らず、馬や象、亀……、それが自然物の姿を生かして造形されるものであればあるほど、よく似ているのです。このことは、現在、開催中の「世界の動物造形展」の中でご案内しています。展示室では、動物玩具の“兄弟・姉妹探し”をしていただくのも楽しいことと思います。――玩具の世界は、豊かな民族色をたっぷりと見せてくれる一方で、共通性や普遍性をもっていることに気付いていただけるのではないかと思います。
(学芸員・尾崎織女)
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