日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2009.06.22

美しい大正時代の児童誌~「なつかしのおもちゃ博覧会」より~ 

6号館では、夏の特別展「なつかしのおもちゃ博覧会」がオープンしました。この特別展は、明治・大正・昭和・平成…と移り変わる百余年の間に登場し、私たちが親しんできた玩具を一堂に集め、その題材、素材、機能、目的などに照らして近代玩具史のあらましをご覧いただくと同時に、なつかしい玩具の数々を通して、わが国の生活史をふり返っていただこうという企画です。

各時代の展示品を前に歓声をあげられる方も多く、土日曜日ともなれば、ご自身の子ども時代の思い出を語り合いながら観覧される家族連れも目立ちます。楽しい声があちこちから聞かれる展示館にいると、玩具は、小さく頼りないものでありながら、私たち一人一人にとって、子供時代の思い出を凝縮して保存する力をもっていることにあらためて気づかされます。

今回の展示の中から、大正時代の児童雑誌と玩具の世界を少しご紹介してみたいと思います。

展示風景「大正時代」のコーナー


大正時代に入って、ブリキ、セルロイド、アンチモニーなどの新素材玩具の量産体制が確立すると、「メイド・イン・ジャパン」の玩具が広く海外に進出し、玩具は日本の輸出産業の重要な柱となるほどに発展しました。また、舶来物に関心が集まり、キューピーや西洋風俗をまねたセルロイド製人形が人気を博します。

そのような中、芸術性の高い児童雑誌が相次いで創刊されます。展示室には、鈴木三重吉主宰の『赤い鳥』と並んで、『子供之友』や『コドモノクニ』をご紹介していますが、誌面の絵の愛らしさが特に若い来館者層の目をとらえているようです。
わけても、私は『コドモノクニ』に心惹かれています。大正11 (1922)年から昭和19(1944)年にかけて東京社から発刊されていた『コドモノクニ』は、子供たちに伝えたい詩や童話、情感豊かな音楽、美しくモダンな絵が満載されたページと、親へのメッセージが込められた教育啓蒙的なページもありました。制作には、巌谷小波、水谷まさる、北原白秋、野口雨情らの作家陣、武井武雄、竹久夢二、岡本帰一らの画家陣、そして作曲家では中山晋平らが参加。この錚々たる芸術家群をまとめる編集顧問が児童心理学者の倉橋惣三というのですから、なんという豪華さでしょうか。大正モダニズムを背景とするデザイン性の高い画面構成が注目を受け、豊かな情操を育む児童雑誌として時代の歓迎を受けました。

『コドモノクニ』より「ままごと」

『コドモノクニ』より「どんたく」(北原白秋詩&武井武雄絵)


展示替え作業中のこと。この美しい『コドモノクニ』の、どの画面を開いて皆さんにお見せするべきかと、悩みに悩んでいるうち、全部読まずにはいられなくなって、片っ端からページをめくっていきました。北原白秋の詩のリズム感、巌谷小波の童話のおかしみ、野口雨情の詞・中山晋平の曲の情感、武井武雄の絵の幻想……、どれをとっても素晴らしく、心がじんとしてきます。大戦中の用紙制限を理由に265冊目で休刊を余儀なくされますが、戦争一色に染まっていく時代にあって、児童雑誌の世界がぎりぎりまで子どもの心を守ろうとしていたことに気づかされ、胸が熱くなりました。

象車(木製)
玉のりピエロ(セルロイド製)


一方、大正から昭和初期にかけて作られた動物を題材した木製玩具のデザイン、ハイカラな西洋風のセルロイド人形の彩色や表情などには、児童雑誌を彩った武井武雄の絵のような作品が目立ちます。今回、児童雑誌の傍らに、そのような玩具や人形を展示してみました。アメリカ生まれのキューピーが一世風靡した時代、芸術家たちが子供の心に目を向けていた時代、軟らかで女性的な感性が大切にされた大正時代の情感を、玩具や児童雑誌を通じて、今一度振り返ってみていただきたいと思います。

(学芸員・尾崎織女)

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