「リカちゃん」の力      | 日本玩具博物館

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学芸室から 2009.05.07

「リカちゃん」の力     

🌸五月晴れが続いた黄金週間をいかがお過ごしでしたか?
日本玩具博物館は、例年より3~4割増の来館者があり、賑やかな日々を過ごさせていただきました。今回は、「リカちゃんとジェニーの世界」という企画展を行っていることも大きかったと思います。親子で、夫婦で、また三世代でそれぞれの思い出を語り合っておられる姿がいっぱい見られる1号館。入館されるなり、リカちゃんの傍にダッシュしていかれるファンの方々や、ジェニーそっくりの愛らしいファッションで三々五々、館内を歩かれるお嬢さんたちの姿も目立ち、多くの人たちを引き付ける人形たちの威力が感じられる展示室です。

🌸4月30日に集英社から発売されたばかりの『リカちゃん生まれます』を読みました。小島康宏さんという20代のタカラ社員が、人情あふれる下町の職人さんたちと力を合わせて、リカちゃんを誕生させた頃のお話。その製作には、近代日本における工場生産の技が生かされているばかりか、伝統的な<ものづくり>の心が通っていることを知りました。 

リカちゃん(初代・二代目)©TOMY

🌸「こんなに細い人形は売れないよ」――昭和42年、完成したリカちゃんに初めて出会った大人たち、特に人形や玩具を専門に販売していた大人たちは、概してそんな反応だったそうです。確かに、日本伝統人形の姿を見れば、御所人形も市松人形も郷土の土人形も、子どもをテーマにした人形は、ぷっくり太った姿で作られてきました。作り手は、病とは無縁、弾けるようにふくよかな童子をイメージし、買い手は、福々しい人形を身近に置くことで、わが子の健康な成長を願ったのです。リカちゃん以前に登場していた少女姿のファッションドール・「タミー(アイデアル社)」も「スカーレット(中島製作所)」も、リカちゃんに比べれば、それなりにふっくらした身体を持っていました。けれど、遊び手である昭和40年代初期の少女たちは、弱くて寄る辺のない小さな身の内に、数え切れない夢と悩みを抱えた自分自身を投影できる人形を求めていたのでしょう。
🌸そんな少女の心を感じ、その夢を「リカちゃん」に託した小島さんたち生みの親たちのバランスのいい「人間力」と、量産され品々に込められた作り手たちの誠実さが、40年以上にわたって、リカちゃんを生かし続けているのですね。

リカちゃん(三代目・四代目)©TOMY

🌸5月3日の記念講演会では、「ジェニーとリカちゃん、出版よもやま話」と題 し、雑誌『ジェニー』や『わたしのドールブック・ジェニー』などの出版を通して、家庭での人形衣装製作を提案してこられた日本ヴォーグ社の編集者・石坂文子さん(本年4月に定年退職されました)から、大人たちにも開かれている人形遊びの楽しみについて興味深いお話を伺いました。ジェニーやそのフレンド・ドールの繊細で美麗な衣装に目を輝かせておられる聴講の皆さまに接しながら、大人の中にある少女性にも、響きあうコードをもっているリカちゃんやジェニーの力に感じ入りました。

記念講演会でお話をされる石坂文子さん
手づくり衣装をまとったジェニー・フレンドドールが並べられています。
ジェニーたちを庭へ連れ出して撮影<妖精に扮したジェニーエクセリーナとティモテ>(衣装制作:若月まりこ氏) ©TOMY

🌸地域文化、民族文化を背負った人間の手が作り出す民芸玩具や人形に価値を求めて追い続けてきた日本玩具博物館が、実のところ、少々苦手としてきたのは「マスプロダクト」な商品玩具や人形の世界なのですが、今回の企画展を契機に、私たちも遅ればせながら、広く日本の人形文化を見渡し、とらえ直してみたいと思っています。 

🌸そのような思いから、今夏は、「神戸人形」などからくり仕掛けの人形たちをとりあげ、秋は、江戸時代の市松人形や郷土の姉さま人形から、セルロイドの人形、ソフトビニールのミルクのみ人形、バービー、タミー、スカーレット、リカちゃん、ジェニーまで、着せ替え遊びやごっこ遊びの友人となった日本の人形たちを振り返る企画展を予定しています。

(学芸員・尾崎織女)


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