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blog端午節~日本・中国~
●昨日は、地元のある団体主催の<食文化セミナー>にお招きを受け、「端午の節句と初夏の食べもの」というタイトルでお話をさせていただきました。セミナーは、五節句(供)の習俗とそこに登場する食べものについて、歴史をさかのぼりながら探っていくシリーズものです。去年は「上巳(桃の節句)」と「七夕」の節句、今年は「端午」と「重陽」の節句のお話をお受けしています。
●その準備を進める中で、私自身、めぐる季節の中で、我々の祖先が自然の力を暮らしに取り込みながら、四季折々の美意識を育んでいった歴史にあらためて触れることとなり、節句行事に対する愛着がますます強まりました。
●日本が中国から節句(供)の概念を受け入れた奈良時代以前から、「端午」は、菖蒲や蓬(よもぎ)をはじめ、 香気の強い植物の力によって邪気払いを行う節でした。沈香、麝香、丁子、龍脳などを入れた香袋と香の高い花々を束ねた薬玉に、続命縷(しょくめいる=赤黒青白黄の五色の糸)をつけて飾ったり、菖蒲と蓬を屋根に挿して葺いたり・・・。また、菖蒲の葉や根を刻み入れて薬香をうつした酒を飲み、菖蒲湯につかり、夜は菖蒲を枕に敷いてねむる、といった風習がありました。
●清少納言の『枕草子』には、「菖蒲蓬などのかをりあひたる、いみじうをかし。九重御殿の上をはじめて、言ひしらぬ民のすみかまで、いかでわがもとにしげく葺かむと葺きわたしたる、なおいとめずらし。いつかはこと折に、さはしたりし。空の気色曇りわたりたるに、中宮などには、縫殿より薬玉とて色々の糸を組み下げて参らせたれば、御帳立てたる母屋の柱に左右に付けたり・・・・・・」と、家々に葺かれた菖蒲や蓬が香気を放って気持ちのよい様や、宮中における薬玉贈答の風習などが記されています。
●屋根に菖蒲を葺く風習など、今ではほとんどみられなくなりましたが、すでに平安時代の昔から、人々は上下貴賎を問わず、どれぐらい密度を高く菖蒲を屋根に葺くかということに情熱を燃やし続けてきたようです。江戸時代の文献や浮世絵、屏風絵などを探すと、京でも、江戸でも、軒並に菖蒲を葺いた町の中で、節句飾りや行事を賑やかに楽しんでいる人々の生き生きとした姿に出会えます。
●端午に登場する菖蒲は、花菖蒲とは異なり、華やかな花を咲かせる種類ではありませんが、香気に優れ、高温で蒸すと神経痛や痛風に効果があり、鎮痛作用も抜群だとか。一方、蓬は、健胃作用があり、消化吸収を助ける作用があるようです。武家社会に至って、菖蒲(しょうぶ)は「尚武(しょうぶ=武を尊ぶ)」に結びついて男児の祝儀へと展開しますが、端午の節句の室礼に、この薬効をもつ菖蒲や蓬の供えは、常に欠かせないものでした。
●去年の旧暦端午(2008年6月8日)に、中国山東省煙台に住む友人 から、画像付き“端午メール”をもらいました。「・・・・・・今日は端午節。私たちの地域では、蓬を束ねたものを屋根にさしたり、門戸にかけたりして端午を迎えます。我が家はアパートなので、下の階の住人が玄関前に蓬の束を置いてくれました。夜になると、眠っている子どもの腕や指に輪にした色糸をかけます。そうすると邪気が払われると伝わっています。食事には、もちろん、美味しい粽を頂きます。・・・・・・」と。
●「節句(供)」を日本に伝えた本家中国では、今日も薬草による端午の魔除けの風習が続いているのですね。
●今年の旧暦端午は、5月28日。菖蒲と蓬がうまく入手できたら、江戸時代の人々にならって、5号館ランプの家の屋根に菖蒲と蓬を葺いてみたいなと思ったりしています。皆さまも、今年の端午は、菖蒲葺き、菖蒲酒、菖蒲枕、菖蒲湯・・・・・色々ありますが、青々とした季節の植物を暮らしの中に取り入れて、爽やかな夏がやってくるよう、邪気払いをなさってみてはいかがでしょうか?
<後記>
●5月28日、旧暦端午に山東省に住む友人から端午のお便りが届きました。端午節の祝い方がわかるお写真が添えられていて、その中に、蓬束とはまた異なる魔除けの習俗を示すものがあったのでご紹介させていただきます。
●大蒜(にんにく)と苍术(ほそばおけら)を赤い紐で束ねたものに棗も結び付けられて、玄関先に置かれています。この時期に発生する蟲を除け、合わせて目に見えない魔を駆除しようというのです。 中国の旧暦五月は“毒月”。蚊や蝿が繁殖し、万病が流行すると恐れられてきました。虫を除け、万病を予防するために、端午節に登場するのは、菖蒲、蓬、大蒜、苍术(ほそばおけら)、白芷(びゃくし)といった薬効のある植物です。菖蒲の根や大蒜を浸した雄黄液を壁に塗ったり、部屋の中で苍术や白芷を燃やしたりして、病原を燻し出すことが行われてきたそうです。日本の菖蒲の節句は、中国からもたらされた習俗が元になっていることがわかります。
(学芸員・尾崎織女)
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