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学芸室から 2008.09.18

アジアの猿面-「世界の仮面と祭りの玩具展」より 

1号館で「世界の仮面と祭りの玩具」展が始まりました。世界約40カ国から祭礼などに登場する仮面を一堂に集め、アジア、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカと地域ごとに展示しています。ユニークな顔と表現力の強い表情、生命力に溢れた造形が一堂に集う展示室は、あっちを見てもこっちを見ても、負けず劣らず賑やかです。

「異形の人」とテーマにした仮面のコーナー

そんな中で、地域を巡りながら、同じ題材の仮面を比べてみるのも面白いと思います。例えば、角の生えた鬼、目が三つ以上ある神様、目をむき、口を大きく広げた人間・・・。世界中の人たちが創造した姿には共通のイマジネーションがあるのだと感心する一方で、民族によって、なんと表現の仕方が違うのだろうか、と驚かされたりもするのです。

今回、展示作業を進める中で、アジアの仮面の中に、猿をモチーフにしたものが多いことにあらためて気付かされました。インド、タイ、カンボジア、ラオス、インドネシア、中国、日本・・・・、アジア中の子ども達に、猿はとても人気があったのです。

アジアの猿「ハヌマーン」の面・・・左からインド、タイ、カンボジア、インドネシア

インドをはじめとするヒンドゥー教文化圏では、それら猿の仮面は「ハヌマーン」と呼ばれています。 ヒンドゥー教の聖典ともなる『ラーマーヤナ』の中で、ハヌマーンは猿族の長、すぐれた戦士、弁舌家として大活躍をするのです。

・・・・・・・・・ハヌマーンは、猿族の王・スグリーヴァが、その兄ヴァーリンによって王位を追われた時、猿王スグリーヴァに従って王都を出て行きます。ヴィシュヌ神の化身であるラーマ王子は、ハヌマーンに助けを請われてヴァーリンを打倒。スグリーヴァは、めでたく王位に戻ることになります。その恩返しにと、ハヌマーンは、ラーマ王子の妃、行方不明のシータ姫の捜索に乗り出します。羅刹王ラーヴァナの居城、ランカー島にシータ姫を見つけ出したハヌマーンは、これをラーマに知らせ、猿族を率いて、ラーマに協力するのでした。・・・・・・・・・

『ラーマーヤナ』はインドばかりか、他の東南アジア諸国でも広く聖典として尊ばれ、ハヌマーンは親しみやすい英雄として子ども達の尊崇をも集めてきました。
1974年には、白猿ハヌマーンが、『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』という名の劇場映画の中に登場し、当時タイで人気を博したことはご存知でしょうか。この映画は、「ウルトラマン」の円谷プロとタイのチャイヨー・プロダクションの共同制作で、2001年にリバイバルを果たしています。その後、白猿ハヌマーンは、『ハヌマーンと5人の仮面ライダー』の中で、仮面ライダーとも共演しています。アジアの猿族の長・ハヌマーンは、ヒンドゥーの聖典から飛び出して、現代の暮らしの中に息づくヒーローだということがわかります。

東南アジア各地で作られたハヌマーン面を見つめた後に、中国に目を転じてみると、ハヌマーンにも匹敵する猿の英雄がいました! 孫悟空です。孫悟空は中国四大奇書のひとつ『西遊記』の英雄で、私たち日本でも広く親しまれてきた愛すべきキャラクターですが、東アジア一帯では「齊天大聖」の名で信仰を受けています。ハヌマーンの隣に孫悟空を置いてみると、造形感覚の違いをこえて、二つのキャラクターが結びついているように思えてきます。実際に、ハヌマーンが孫悟空のモデルになったとする説を唱える方もあるのですが、ご興味のある方はご一読下さい。『孫悟空の誕生~サルの民話学と『西遊記』』(中野美代子著・玉川大学出版部・1980年刊)

私たちの国ではどうでしょうか? 猿は全国の日吉神社で、神の使いとして尊崇されてきた動物。祭礼の日の露店に並ぶ張子面の中で、猿は、稲荷神の使いである狐とならんで最も多く作られた動物面といえます。

アジアの猿面…孫悟空(中国)と猿(日本)

世界各地のユニークな仮面における色と形の違いを比べながら、文化の交わりと文化の独自性・・・その両方を感じ、わくわくと楽しくなっている今日この頃です。
6号館の「音とあそぶ~世界の発音玩具と民族楽器~」も今しばらくは開催中で、仮面展と合わせて世界各地の造形感覚の素晴らしさに浸っていただけるでしょう。日本玩具博物館は、豊かな民族色に彩られる秋を迎えています。

(学芸員・尾崎織女)

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