日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2008.07.28

<見学レポート>虫送りのサネモリ人形~市川水系の村々を訪ねて~ 

去る土曜日、夏の伝承行事「虫送り」を見学させていただこうと、日本玩具博物館のある香寺町を北へ、市川沿いの国道をさかのぼって神河町赤田の集落を訪ねました。

 ♪イネノムシャ ゴーシャラク サネモリァ サキダテ ヨロズノムシャ オトモセー オトモセー♪
(※「稲の虫は後生楽 実盛は先立て 万の虫(武者)はお供せよ」の意か)

村人は総出で、お経のような言葉を口々に節をつけて唱えながら、70本の松明をもって棚田の道を行進していきます。麦わらで作られたサネモリ(実盛)と家来の人形が先立ち、太鼓と鉦の音が周囲の山々に木霊する山里。星が降る夏の夜に繰り広げられる美しい光景です。稲の実りに害をなす虫たちを火に集めて、村境の川べりまで追っていくと、松明をまとめた大きな火でサネモリ人形と虫たちを燃やします。サネモリたちのあの世での安楽を願う心から、唱えごとの中に「後生楽」の言葉が繰り返されるのだと思います。


サネモリ人形を先立ちにする虫送りは、九州から中国、近畿、中部東海地方にも広く見られましたが、いずれも農薬の普及とともに廃絶し、今では行われる地域も少なくなりました。最近になって、村おこしムードの高まりとともに復活を果たしたところもあります。赤田地区は平成17年から、地元の古老や郷土史家の話をもとに、有志が中心となって伝承の再現に取り組んできました。

兵庫県神崎郡神河町赤田地区のサネモリと家来


ここ数年、夏土用の頃になると、播州各地の虫送りに出かけ、サネモリ人形の有り様を見学してきました。たとえば、福崎町東田原大門では稲わら製のものが作られ、神河町各地では麦わら製で白い和紙の衣装をつけます。市川町甘地では木製の胴部に粘土などで飾りつけが施され、地区によって様々ですが、いずれも騎乗した姿。神河町赤田地区のように家来を従える場合もあります。

  


では、サネモリ人形とは何でしょうか? 一説には、平家の武将・斎藤別当実盛(さいとうべっとうさねもり)をかたどったものだと言われています。木曾義仲軍との合戦の折、別当実盛は、騎乗していた馬が稲株につまずいて転倒し、そこを討たれて戦死してしまいました。そのことを怨んだ実盛が稲虫となって実りをさまたげるという伝説が各地にあり、ウンカがサネモリ虫と呼ばれたりもしました。サネモリ人形は、万の虫や悪霊を統べる依り代のようなものと考えられ、行列の先立ちとなったのです。
もう一説には、サネモリの名の<サ>が「サオトメ」「サナエ」「サノボリ」などに共通する<サ>をもつことからサネモリを田の神と関連付ける考え方もあります。また、神の乗り物は古来、馬であると考えられてきました。

ここに、私たちがかつてとらえていた「人形」というものの性格と役割が凝縮されているのではないでしょうか。
    神の姿を表現するもの、
    歴史的な人物の性格を再現するもの、
    人間の目には見えない霊魂の依り代となるもの・・・・・・
今、現実世界では見ることの出来ない存在をかりそめに表現するのが人形であるなら、長くこの世にとどまることが出来ません。サネモリ人形は焼かれることで、彼岸へとわたっていくのです。

子どもたちの手に手に松明の灯(福崎町大門地区/2008.7.20)
焼かれるのを待つサネモリ人形(神河町赤田地区/2008.7.26)
松明の火に燃えあがるサネモリ

私達の祖先は、自分たちの生活に不都合を与える自然に対してどのような感情で向き合ってきたか、「人形」という造形をどのようにとらえ、人形にどのような役割を与えてきたか、霊を弔うときの音とリズム、余韻にはどのような感性を働かせていたか・・・・・・、地域の伝承行事への参加は、たとえばそのようなことを体験的に実感し、私達を育んだ土壌を確認するまたとない機会だと思います。今や大人にとっても・・・。
自分を守り育ててくれた社会環境と、自分の価値観を育んでくれた文化への信頼が、子どもたちの将来を根元で支えてくれると思うのです。我々の子どもたちが、文化的な根無し草にならぬよう、文化的無国籍感に苦しまぬよう、博物館施設は、これまで以上に地域性や民族性を大切に考えていかなくては、と思います。今、現実に博物館施設には、玄冬の厳しい風が吹き荒れていますが、文化の保存・伝達という本来の役割を忘れたくはありません。

播州の村々の虫送り行事への取り組みと、その美しい夜の風景は、屋根のない広い舞台に繰り広げられる稲作文化の動態展示ととらえることもできます。
ご興味をもたれた方には、7月、市川水系の村々に点在するサネモリさんの「虫送り」行事を一度、体験していただけたらと思います。(尾崎織女)

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