日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2008.07.21

鳴くニワトリ~「音とあそぶ」展より・その2

摩擦太鼓(Friction Drum)という楽器は、日本ではあまり親しみがないのかもしれません。太鼓といえば、筒型の共鳴器があって、その片面あるいは両面に獣皮、魚皮などの膜を張ったもの。そこを手やバチで叩いて音を立て、リズムを刻む楽器、といえばいいでしょうか。摩擦太鼓は、そうした太鼓の膜の真ん中に、直接、棒や紐をくくりつけ、棒や紐をこすることによって音を響かせる楽器です。ヨーロッパや中南米などでは広く親しまれているもので、春を迎えるカーニバルの折には、手に手に摩擦太鼓をもってリズムをとる人たちをテレビの画面などでも観ることがあります。

摩擦太鼓(左=ブラジル/右=コロンビア)

ペルーには、クィーカと呼ばれる摩擦太鼓がありますし、コロンビアには、マラーナと呼ばれる瓢箪製の摩擦太鼓があり、太鼓膜から突き出した棒をこすると、ヴーヴー、ヴヴォーッと、豚の鳴き声に似た音を響かせます。展示室には、これらの他、スペインやルーマニアからやってきた楽しい形の摩擦太鼓の玩具を展示しています。

さて、もう今から10年以上前のことですが、日本玩具博物館は、日伯修好100周年記念行事(1995年度)の一貫として、ブラジルの三都市(サンパウロ~クリチバ~リオデジャネイロ)を巡回して、「日本の伝統玩具展」を開催したことがありました。各都市の展示準備やワークショップの開催、展示撤収のため、井上館長と交代で渡伯したのですが、その折々に、摩擦太鼓を模した玩具を入手しました。

リオデジャネイロの鳴く鶏のおもちゃ(ブラジル)

ブラジルのかつての首都、サルバドールの露店では、ヤシの実を共鳴筒にした小さな摩擦太鼓の玩具が並んでいましたし、リオのカーニバルで有名な町の玩具屋さんでは、トキの声を告げる鶏の玩具が売られていました。厚紙の筒の片面に紙膜を張って、その紙膜の中心に穴をあけて紐を通し、筒に飾りつけて鶏らしく造形してあります。指に黄色い松脂をつけ、リズムよく紐をこすると、コッコッコッ、コッ、コケコッコーッと、びっくりするぐらい本物らしい鳴き声を立てるのです。音をお届けできなくて残念。発音の仕組みは、糸電話と同じといえば、わかりやすいでしょうか。

この鳴き声をたてる鶏の玩具ですが、海外の文献を調べていたら、チェコ・プラハで出版されたEmanuel Hercik著の『Folk toys/Les jouets populaires』(1951年刊)の中に、リオの鶏と同じ仕掛けのチェコ製の玩具が描かれ、イースターの鶏として紹介されています。キリストの復活を讃え、春の訪れを祝うイースター当日、人々は仕事を休み、教会では鐘を鳴らすことを控えることになっていました。鐘は時刻を知らせる役割を果たしていましたから、人々は子どもたちにトキをつくる鶏のおもちゃを持たせ、教会の鐘の代わりに時間を知らせて回る役割を担わせました。

『Folk toys』に描かれた鳴く鶏(チェコ)


数年前、チェコを旅行された当館友の会の笹部いく子さんを通じて、このチェコの鶏もコレクションに加わっています。

復活祭の鶏(チェコ)

この鶏たちを真似た玩具を子どもたちと一緒に作れないものかと思案し、紙コップに紐を通した「鳴く鶏」をご紹介したのは、10年ほど前のことになります。小さい子にはもちろん、大人にとっても、「こんな簡単なことで、こんなに面白い音がでるのか?!」という驚きも手伝って、非常に人気のあるワークショップの題材となりました。紐をこするための松脂はなかなか入手できないため、濡らした布片や濡れティッシュで紐をはさんでこすって もよい鳴き声を奏でてくれます。

子どもたちが作った紙コップの鳴く鶏(2006年夏のワークショップで)

何十人もの子どもたちと「鳴く鶏」を作れば、講座室は鶏小屋のような賑やかさです。今夏のおもちゃづくり教室もとりあげていますので、ご興味のある方はぜひお訪ね下さいませ。 夏秋の特別展「音とあそぶ~世界の発音玩具と民族楽器~」

(学芸員・尾崎織女)




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