日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2008.07.15

ぶんぶん独楽がまわる音 ~「音とあそぶ」展より・その1~  

◆「とあそぶ」展会場で、たくさんの民族楽器が居並ぶ中、ひときわ地味な姿で注目をあびている一群があります。「これ、なんですか?」と来館者から質問を受けることも度々です。
――― 「ぶんぶん独楽です。昔、遊ばれたことありませんか?」

ぶんぶん独楽は、円形や楕円形の板片などに穴を開けて紐を通し、紐の両側を持って、回しながら音を出す簡単素朴な玩具。筆者も、子ども時代、ボタンの穴に紐を通してブーン、ブーンと回し遊び、その音の面白さと、紐がまるでゴムのような弾力をもってくる不思議さに夢中になった思い出があります。ここまでお話しすると、「ああ、懐かしいですね。」と、たいがい、来館者はそうおっしゃられます。
ただ、このぶんぶん独楽が古くから世界各地で回されてきたことについては、ほとんど知られていないのではないでしょうか。

古代ギリシャの時代、ぶんぶん独楽は「イユンクス」と呼ばれ、魔女が男性を誘惑するときに使う秘具でした。回転とともに唸り、楽器のように様々な音色を発するイユンクスは、イユンクスという鳥(アリスイ)が、求愛の時に鳴く声に似ていることから、その鳥の名をもらったといわれます。

アプレイアの壺に書かれたイユンクス 『アドニスの園』(マルセル・ドゥティエンヌ著/せりか書房)より

北アメリカのイヌイットやグリーンランドの人々においては、セイウチの牙やアザラシの骨などから、ぶんぶん独楽(ブザー)を作り、また、ブラジル・マッットグロッソ州に住むクイクロ族は、ヒョウタンの実殻などを円形に切り取ってこれを作りました。怖い獣を遠ざけたり、悪魔を追い払ったりする道具と考える民族があれば、また、病気の治療に使用する秘具と考える地域もあったようです。雑音性に満ちたこの不思議な音には、目に見えない邪気や悪霊の類を退散させる霊力があると考えたのでしょう。

上二つは、モンゴルの羊の骨製ぶんぶん独楽
 真ん中は、ブラジル・アクレ州、アシャニンカ族の骨製ぶんぶん独楽、下は、グリーンランドのセイウチの骨製ぶんぶん独楽(いずれも1990年代)

江戸時代の日本では、「松風独楽」の名で親しまれていました。松風とは、松林を風が通りつけるときの音をいい、寂しい海岸沿いの風景を連想させるもの、茶の湯においては、釜の湯がたぎる音を松風と表現したりもするそうです。遊び道具として愛されるぶんぶん独楽の音色を風流な音に結びつけたのは、江戸文化の粋な心というべきでしょか。

ぶんぶん独楽が、いつ、どこの国で誕生し、どのように伝播したか、あるいは同時多発的に世界各地で作られ始めたものなのか、このことを明らかにするのは非常に困難です。また、まじないの道具であったぶんぶん独楽が、どのような過程で玩具の世界へと受け継がれたのか・・・・・・いずれにしても、長い歴史と音に対する文化を秘めたこの小さな音具が、子どもの玩具の世界で生き続けているというのは、本当にすごいことだと思うのです。

上二つは、ブラジル・アクレ州、アシャニンカ族のぶんぶん独楽 
下は、ネパール・ゴルカ郡の小学生が作った木製ぶんぶん独楽(いずれも1990年代)

そして、ぶんぶん独楽は、今も遊ばれ続けています。旅行先のタイやマレーシアで、ペプシの王冠を叩いて板状に伸ばしてぶんぶん独楽を作り、嬉しそうに回して遊ぶ子どもたちに出会いました。日本の子どもたちも、この玩具が大好きでした。回して音が出るようになるには、糸を緩めたり引っ張ったりするときの力加減やリズムにちょっとしたコツが要りますが、そのコツさえつかめば大丈夫!

長い歴史と国境を越えて、広く兄弟姉妹をもったこの小さな玩具だからこそ、私達はこれを遊び伝えていきたいと思うのです。今夏のおもちゃ作り教室でもアイスクリームの木のスプーンを使って、ぶんぶん独楽を作ります。コツをつかんでみたい方は、ぜひご参加下さいませ。(尾崎織女)

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