日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2008.03.03

千客万来、雛まつり 

🌸桃の節句です。昨日は、節句前の休日とあって250名をこえる方々のご来館を受けて賑わいました。受付スタッフによれば、「雛人形を見たくて来ました」という声がとびきり多く聞かれたようです。展示会場には、女の子を連れたご家族や、おばあさんとお母さんと娘さんという女三代でのご来館も目立ちました。
🌸ランプの家の縁側に設けている「桜茶」のコーナーもフル回転。庭のマンサクや福寿草の黄色い花を眺めては、畳の間に飾られた昭和の雛人形に目をやり、雛まつりの思い出話に花を咲かせる来館者の風情にも、春らしい趣がありました。

ランプの家の雛飾り

🌸午前中には、昨春、大正時代の御殿飾り雛を寄贈下さったご婦人が娘さんと二人で、懐かしい雛との再会を楽しまれ、午後からは明治時代の京製古今雛の寄贈者のご友人が、目を細くして、思い出の古雛に見入っておられました。

お雛さまに会いに来て下さった寄贈者の皆さま

🌸午後からは、恒例によって展示解説会を行いました。
1時間ほどかけてゆっくりと会場の雛についてご案内したのですが、中には毎年、必ず、解説会にお越しになられるご家族もありました。最初にお会いした折には幼稚園児で、私の質問にも大きな声で答えてくれていたボクが、もう中学2年生。毎年、ここで過ごす数時間が少しずつ積み重なり、この館から得た何らかの感情や知識が彼の心に小さくても確かな面積を占めていくようなら、「博物館冥利につきる」というものです。

🌸そんな風に思っている時、「尾崎のお姉さん、全然、変わらないわぁ」と若いお母さんに声をかけられました。学生時代に何度か雛人形展の解説会に参加して下さった方で、この日は、小さな女の子の手をひいてのご来館でした。「家にもお飾りしたのだけれど、この子に古いお雛さまを見せてやりたくて」と。もう「お姉さん」なんていう年齢はとっくに過ぎた私ですが、昔どおり、そう呼びかけて下さる方に再会する度、流れた歳月を想うと同時に、皆さんの心の中に、おもちゃ館が存在感を持って息づいているという実感を得て、とても嬉しくなるのです。

展示解説会の様子

🌸ところで、その彼女は、学生時代にこの展示室で出合った「三春の張子雛」が忘れられないと話しておられました。

享保雛(左=江戸後期の衣装雛/右=三春の張子雛)

🌸彼女が今も好きだという三春の張子雛は、画像の右側です。福島県郡山市高柴の張子師(橋本広司氏)が木型に和紙を張り抜いて作るもので、見ているこちら側もつられて笑顔になってしまうような奔放な表情と明るい彩色が魅力的な郷土人形です。男雛の振りあがった両袖と動きのある姿態、女雛の緋色の袴(はかま)と重ね着た十二単の表現などは、この地方に伝わる江戸時代の衣装雛「享保雛」の様式を映したものと言われています。左側の画像がその享保雛。三春の張子雛と見比べていただくと、姿形の共通点がよくわかります。

🌸豪華な衣装をまとった雛は、江戸後期から明治・大正時代を通じて、都市部の富裕層のものでしたが、張子や土など型抜きで量産される雛は、衣装雛に手の届かない人たちのためのものだったといわれています。

🌸最近は、若い世代の来館者がこうした素朴な雛人形に接し、「デザインが現代的に思える」とか、「軽さと存在感のバランスが面白い」「泰然として、風格のあるお雛さまだと思う」などという感想を伝えて下さることも度々です。伝統的なものに触れた、というよりむしろ、新鮮な表現に出合ったと感じられる方が多いように思います。皆さんはどのようにお感じになられますか?   ※春の特別展「御殿飾り雛」

(学芸員・尾崎織女)



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