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学芸室から 2008.02.29

草花のお雛さま

菜の花のお雛さま

草花のお雛さまをご存知でしょうか。花の部分を頭に見立て、大きな葉の衣装を着せた素朴な雛人形です。

今日は、地元の団体が主催する「食文化セミナー」に招かれ、「ひなまつりと春の食べもの」というタイトルでお話をしたのですが、講座の最後に、受講生の皆さんと一緒に「菜の花のお雛さま」を作りました。野に菜の花が咲く季節には早いというのに、セミナーを主催したスタッフの方々のご努力で、見事な菜の花が会場に用意され、50名ほどの皆さんが、目を輝かせて素朴な雛人形を作り上げていかれました。
私は播州の農村部で幼い時代を過ごしたのですが、桃の節句になると、幼馴染たちと一緒にお弁当をもって野や山へ遊びに行きました。そこで春の草花を摘み、小枝や松葉を集めると、何対ものお雛さまを作ったものです。播州に限らず、草花雛は、節句に野遊びや山遊びに出かける風習のある地域などを中心に伝承され、長く子どもの遊びの中で生き続けてきたものと言われています。


奈良朝時代に日本が中国から受け入れた上巳節(桃の節句)は、水辺で草人形(くさひとがた)などによって禊ぎを行い、仙木である桃の枝や花を浸した酒を飲み、鼠麹草(母子草)を入れた羹(餅状のもの)を食し、春の植物の薬効と霊力を取り込むことによって、身体を健康に保とうとする特別の日でした。近世に入って、桃の節句が女性たちのものとして意識され始める頃から、そこに「雛遊び」や「雛飾り」の要素が加わり、今日へとつながっていきます。
旧暦の3月3日は、今年のカレンダーでは、4月8日に当たります。桃の花は満開、菜の花やタンポポは野に咲き乱れ、桜花もほころび始める春爛漫の好季節に祝われるのが本来の節句でした。桜の「サ」は田の神、「クラ」は座を表わすといわれます。桜(山桜)は、田の神が宿る樹木であり、桜が咲くことで農事が開始されました。満開の桜は秋の豊作を告げるもの。人々が桃の節句の頃、山へ野へとくり出していくことには、田の神をお迎える意味が込められていたのでしょう。
そんな桃の節句の野遊びに登場する素朴で愛らしいお雛さまは、古い時代の草人形のかすかな名残を感じさせつつ、めぐりきた春の喜びを小さな身の内に宿しているようです。
 
近くの野に菜の花が咲き始めたら、皆さまも是非、草花のお雛さまをお作りになってみて下さい。スミレでもタンポポでもレンゲソウでも、頭はどんな花で作っても、可憐で風情のあるお雛さまになりますよ!

(学芸員・尾崎織女)

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