日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2007.12.24

メリー・クリスマス!

玩具博物館に今年もクリスマスがやってきました。恒例によって、12月の日曜日は、クリスマス絵本の朗読会展示解説会を開催してきました。

朗読会の読み物は、その時間、会場にいらっしゃる来館者の年齢や雰囲気をみて決めています。昨日は、ドイツの『クルミ割り人形』、メキシコのクリスマスパーティーに登場する「ピニャータ」が主人公となる『クリスマスのつぼ』、フランスのキリスト降誕人形「クレーシュ」がプレゼントとして紹介される『まりーちゃんのクリスマス』などを取り上げました。
ちょうど、今年度最後の学芸員実習の学生さん達をお預かりしており、彼女たちに、朗読会の司会役を体験してもらいました。たとえば、展示品の中からクルミ割り人形を取り出して、どういうものかを紹介し、絵本の世界へとつないでいきます。緊張しながらも、実習生たちは、ちょっとした役割を笑顔で終え、朗読者にバトンタッチすることが出来ました。
幼稚園児や小学校低学年の児童たちは小さな膝を並べ、まだお話の筋書きを追いかけるのが難しい年齢の子たちは両親の腕の中、引き込まれたような表情で絵本の世界に入っていきます。

イブの今日は、古き良きアメリカの農村でのクリスマス風景を描いたターシャ・チューダー母娘作『こねこのクリスマス』や、アメリカの空をかけてやってくるサンタロースを描いた『クリスマスの前の晩』、そして朗読会の最後には、スウェーデンの贈り物配達人、トムテの独白で綴られる絵本『トムテ』を取り上げました。

トムテと『トムテ』(リードベリ詩・ウィーベリ絵/山内清子訳/偕成社1979年)

トムテは、スウェーデンの農家の家畜小屋の隅に暮らす小さな妖精です。家人がトムテを大切に扱えば、家畜の世話をしたり、夜の見張りをしたりして、家を守ってくれます。何百年も生きて、家人の誕生から死を、その人生の風景を見守り続けてくれると信じられています。
クリスマス(スウェーデンではユール)・イブには、日ごろのトムテの親切と恵みに感謝して、彼の分のおかゆを家畜小屋などにそっと出しておきます。おかゆは家人がトムテへの感謝を忘れないことの証です。おかゆを受けとったトムテはクリスマスの朝、また来年も家の守り番としてここに居ることを約束するように、家の戸口にプレゼントを置いていくと伝えられ、それが森の木の実や花などのささやかなものであっても、人々は心から喜んだといいます。

『トムテ』は、19世紀後半、スウェーデンの詩人リードベリが書いたもので、大晦日になると毎年、ラジオなどでも朗読がなされるほど長く広く愛されている詩です。1960年代に画家のウィーベリが詩のイメージを描いて完成したのがこの絵本ですが、何百年も生きて、何代も家人の一生を見続けてきたトムテが発する「人はどこから来てどこへ行くのか」という哲学的な問いは、この季節、私たちの心にすうっと沁み込み、普段忘れがちな大切なことについて、考えさせてくれる余韻をもっています。
もちろん、朗読者の力量もありますが、『トムテ』の美しい言葉と幻想的な絵は、小さな子どもたちの耳や目を自然に傾けさせてしまう力があると思います。実際に、『トムテ』の独白が終わった後、一瞬の静寂ののち、どこからともなく、子どもたちのはぁ~とため息と、大人たちのウ~ンといううなり声が聞かれました。

イブの日とあって、今日は一日中、クリスマス展会場に出入りして楽しまれるご家族が何組もあり、また、遠く東京や静岡などから、朗読会や解説会のためにご来館された方々もおられました。おもちゃ館は朝から夕方まで大盛況で、たくさんの方々と点したキャンドルの火を囲み、暖かい気持ちでクリスマスを過ごすことができました。私たちスタッフにとっても、とても幸せな一日でした。

(学芸員・尾崎織女)

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