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学芸室から 2007.02.23

ランプの家の雛まつり   

庭のマンサクは満開。福寿草や雪割一華の可憐な花も明るい光にゆれています。春先の庭を望むランプの家に、今日はまた新たな雛人形を展示しました。

江戸後期の源氏枠飾り雛

「源氏枠御殿飾り雛」―――これは、2004年9月、和歌山県有田市の寺院、善福寺より寄贈を受けたものです。同寺では、江戸時代後期(天保の頃か)、和歌山藩出入りの豪商、酒田屋吉兵衛の娘が善福寺に嫁いだ折に嫁入道具として持参したと伝わっています。
屋根のない御殿は、桧材で作られ、高さ×幅×奥行=87×135×110(cm)の大型。奥の間、中の間、表の間の三つの間に仕切られています。それぞれの間の障子や襖、板戸などには繊細な花鳥画や龍虎の墨絵が描かれて豪華です。御殿の御簾や畳は、当館が寄贈を受ける前に同寺によって修理がなされていました。「これと同じ形態の源氏枠御殿飾り雛が、当時、三組作られており、一組は京都の大寺院へ、他のもう一組は不明である…。」とは、善福寺ご住職・山口氏のお話です。
中に飾られる雛人形は、太平洋戦争末期頃、善福寺の裏山に爆撃を受けた際、収納箱ごと吹き飛ばされたため、傷みが激しく、今回、一部しか展示できませんでした。比較的状態の良い内裏雛は、江戸型の古今雛を思わせる様式で、源氏枠の中におさめると、女雛の前袖の縫取りが美しく映えます。

江戸時代後期、京や大坂(阪)を中心とする関西地方は、御殿(屋根のないもの)の中に雛人形を飾る様式が流行したと、『守貞漫稿』(喜田川守貞著・嘉永6年)にも記されていますが、この源氏枠御殿飾り雛は、江戸後期、関西圏で飾られていた町雛の様子を知るよい資料です。

ここで少し、組み立ての様子をご紹介しましょう。

①土台を組む ②横枠を立てる ③枠を完成させる
④畳を入れる ⑤表の間に障子を立てる ⑥奥の間に襖を立てる
⑦御簾をかける ⑧欄干や階を付ける ⑨人形を飾る

展示を終えるとあたりを夕闇が包んでいました。収納箱の整理をする手をふと休めて雛段を見上げると、人形たちは灯りの中で、昼間に見せていた穏やかな表情を一変させ、重厚で厳かな薫りをまとっていました。雛人形の座す空間に、江戸、明治、大正、昭和、平成…と、長い歳月が一どきに満ちてくるような、不思議な感覚に打たれました。

源氏枠飾り雛を飾ったランプの家 

「源氏枠御殿飾り雛」は3月4日までの展示ですが、6号館の特別展「雛の世界」の会期が終了する4月10日まで、ランプの家では、明治・大正・昭和時代の雛飾りを行っておりますので、ご来館の皆さまには、春の庭を眺めながら、ゆったりと雛まつりをお楽しみいただきたいと思います。

(学芸員・尾崎織女)

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