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学芸室から 2006.11.10

クリスマスの造形・その2 ――収穫に感謝 

この季節、校外学習にやってくる小学生たちに対しても、クリスマス玩具や各地のクリスマス飾りについて、特徴的なものを取り上げてあれこれ話をするのですが、最後には「どのクリスマスツリーの飾りが好きか」と尋ねてみます。子ども達が好きだというクリスマスオーナメントの中には、きまってビスケットや菓子、パン細工のツリー飾りが含まれています。そして、セルビアからやってきた菓子のオーナメントなどは「クリスマスが終わったら食べてもいいの?」と必ず、質問がきます。これらの資料は食用ではないのですが、砂糖で花模様などが装飾された菓子は、確かにとても美味しそうです。

さて、今日につながるようなクリスマスツリーはドイツに始まったとされています。伝説によると、8世紀、聖ボニファスが布教のため、樹木信仰の盛んな土地の人々にとって神聖であったカシの木を倒し、新しい信仰を象徴するものとしてモミの若木を提示したといいます。そのモミの木をクリスマスに飾るようになったのは17世紀頃のアルザス地方(フランス北東部でドイツと国境を接し、住民の大部分はドイツ系)です。パンの文化史研究者の舟田詠子さんは、フライブルク市(ドイツ南西部の都市でアルザス地方に接する)の古文書館で精霊病院のクリスマスツリー用の請求書を調べあげるなどして(※1)、17~18世紀のクリスマスツリーには、レープクーヘンやオブラーテンなどの平らな菓子、クッキー、リンゴや木の実が吊るされたことを明らかにしておられます。

私たちは、ヨーロッパ各地に伝承されるクリスマスツリーを求めるうち、家庭におけるオーナメントには、初期のツリーに見られるような食べ物に関するものが非常に多いことに気付きました。チェコからは食塩を多量に加えて焼かれた小麦パンのオーナメント、ドイツからは聖ニコラウスなどをかたどったビスケットのオーナメント、ハンガリーからはクルミの殻を細工したもの、セルビアからはドングリや木の実細工のオーナメント、また、麦わらやトウモロコシの皮を用いたツリー飾りも各地から集まってきました。緑をたたえるモミの木に、木の実やパンがたわわに付けられたクリスマスツリーは、夏の生命力と秋の実りを象徴するものだったのかもしれません。

いうまでもなく、小麦パンはヨーロッパの主食であり、大麦は牧畜の飼料に欠かせない作物です。北欧や東欧のクリスマスには、新年の健康を期して、床に麦わらを敷いて寝たり、豊作祈願の麦わらを畑にまいたりする風習が残されています。一年の農耕暦が終息するクリスマスに、麦穂や麦わら細工、あるいは発酵させない小麦パンのオーナメントが登場することの中には、人々の生命を支え続けてきた麦を重んじ、麦に実りをもたらす穀物霊を敬う心情が表現されているのではないでしょうか。
常緑樹、木の実、穀物に関わるもの―――これらは、収穫に感謝し、来る年の豊かであることを願う北半球の冬の祭りに共通に登場するものかもしれません。門松(常緑樹)、稲わら(注連飾りなど)、餅、橙や蜜柑などが登場する日本の正月もまた、新しい年神や農耕神を迎え、豊穣を祈るための造形であることを考えると、正月とクリスマスは互いによく似た要素をもっていることに気付かされます。(尾崎織女)

(※1) 舟田詠子著『誰も知らないクリスマス』(朝日新聞社1999年刊)に詳しく記されています。ドイツをはじめ、中部ヨーロッパのパンや菓子をめぐる習俗を通して、クリスマス行事の歴史と意味を読み解いていく非常におもしろい著作です。ぜひ、ご一読を。


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