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学芸室から 2006.11.05

クリスマスの造形・その1 ――光の復活を祝う  

北半球において12月21~22日頃といえば、太陽の照る時間が一年で最も短い冬至にあたります。冬至に向かって太陽の光は弱くなりますが、この日を過ぎると、太陽は夏に向かって日照時間をのばしていきます。古代ギリシャやローマでは、12月25日前後、「永遠の太陽の誕生日」を祝う盛大な儀式を行なっていたといいます。冬至を過ぎて再生した太陽を讃え、春への期待をふくらませる民俗的な心情と、この世に光をもたらすイエス・キリストへの信仰がとけあい、各地にクリスマス行事を生みました。

光のピラミッド(ドイツ・エルツゲビルゲ地方)に火を点して

太陽の光に憧れ、光を祝福する心は、二千年の時を経て生き続け、現在のクリスマスのオーナメント(=装飾)にも象徴的に表れているのだと思います。

麦わら細工の太陽(スウェーデン)

スウェーデンの「麦わらの太陽」は、ユール(=クリスマス)が近づくと、窓辺に飾られるもので、麦わらが巻かれた直径35cmほどの円形の中に麦束が十字を作り、その十字をたわわな麦穂が取りまいています。キリスト教が北欧に普及する中世の頃まで、人々は土着の神々を信仰し、それぞれに異なった祭礼を行なっていたそうです。大きな薪に火を放って、町中を光で満たしたり、豊穣を司る神に山羊や羊を捧げて生命の再生を祈ったり。スウェーデンやフィンランドなどのユールは、キリストの降誕を祝うと同時に、大地をよみがえらせる太陽をたたえる行事であり、主食である麦を育て豊穣をもたらす土地の精霊に収穫を感謝する心が秘められています。そうした重層的なクリスマスの要素を、スウェーデンの「麦わらの太陽」は表現しているように思えます。

ドイツやオーストリア、スイスなど中欧の国々にもツリー飾りや窓飾りなどに麦わらで手づくりされた光のオーナメントが見られます。小麦わらを水に浸して軟らかくした後、赤や金の糸で縛ったり編んだりして、地域独自の形に作り上げていきます。
こうしたオーナメントは、本来、クリスマスが終わると、保存されることなく、灰にして麦畑にまかれたりすることが多かったといいます。写真にご紹介するのは1960~80年代の作品ですが、輝きはあせず、今年も展示室で厳かな光を放ち続けています。

(学芸員・尾崎織女)



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