ブログ
blog「世界クリスマス紀行」展オープン!
*先週、5日間ほどを費やして、秋・冬の特別展「世界クリスマス紀行」の展示が完了しました。頭の中に描いた完成予想図をもとに、館長はじめスタッフとともに深夜まで時を忘れて展示作業に没頭し、会期より1週間早くオープンすることができました。日本玩具博物館には、ひと足先にクリスマスアドベント(待降節)が訪れています。
*恒例となった当館のクリスマス展も今年で22回目。本年は、『世界クリスマス紀行』のタイトルどおり、世界各地のクリスマスオーナメントや玩具などを通して、地域ごとにクリスマス風景をたどっていく内容です。
*オープンの朝、展示室の扉を開けるなり「うわあ~、綺麗!いいなあ」と、来館者が発するその一声が嬉しくて、来館者が展示コーナーのどこに目を留めて下さるかを見届けたくて、私たちは、展示室をウロウロと出入りしてしまいます。………ふと見ると、小学3年生ぐらいでしょうか、女の子が中南米のクリスマスのコーナーで、『クリスマスのつぼ』(J・ケント作絵/清水真砂子訳/あかね書房)を熱心に読んでいます。クリスマス飾りの文化的背景が広がることを願って、今回も、それぞれの地域ごと、展示品にまつわる絵本を設置したのですが、子どもたちは、いち早く、それらに目を留めます。絵本を読み終えた女の子は、展示ケースの中をのぞき込み、メキシコのピニャータを見つけて嬉しそうに母親を呼びました。「おかあさん!見て!これ、ピニャータっていうんやで!」 そして、メキシコの子ども達にとってピニャータがどういうものかを熱心に話し始めました。
*「これなあ、ピニャータいうて、壺の周りに新聞紙とか張って色んな形を作るんやんか。牛や馬や星の形もあるよ。壺の中にキャラメルやチョコレートやお菓子いっぱい詰めてな、クリスマスパーティーの時、天井から吊るすねん。それでな、パーティーの最後になったら、みんな目隠しして棒で叩き割るん。ピニャータが壊れて、床に散らばったお菓子はみんなもらって帰るんやって。」
*母親は子どもの説明に感心して、展示品と解説文を見直します。「へえ、メキシコにはポサダっていうクリスマスの行事があるんやね。」「あのな、お母さん、壺は割られてしまったけど、役にたててよかった言うとうで。おもしろいな。」
*その後も母娘は、クルミ割り人形(ドイツ)やキリスト降誕人形(イギリス)など、あちこちの国のクリスマス飾りと絵本の主人公を見比べながら、1時間半をクリスマス展示室で過ごされました。お母さんは去り際には、部屋の隅っこで、展示パネルの位置を直しながら、時々、そっと二人の様子を見ていた私に、「ここに居ると、なんだか幸せな気分になります。クリスマスが近づいたら、もう一度、家族で来ますね。」と笑顔で声をかけて下さいました。
*私たちは、このような来館者に接する度、展示をつくる喜びに満たされ、またきちんと展示資料の意味を伝える責任を感じて、背筋がピンとのびる思いがします。
*クリスマスというのは、例えば私のようにクリスチャンでない者にとって遠い異教の祭りかもしれません。けれども、そこに登場する造形物には、豊かさへの感謝であったり、小さく儚いものへの慈しみであったり、幸福への願いであったり・・・そんな気持ちが込められているせいでしょうか、見ていると、温かい気持ちに包まれ、人に寄り添いたい思いを抱かせるようなところがあるようです。それが宗教的情操ということなのかもしれません。このページでは、これから何回かにわけて、いくつかのクリスマス造形を取り上げ、それらが伝える意味についてご紹介してみたいと思っています。
(学芸員・尾崎織女)
バックナンバー
年度別のブログ一覧をご覧いただけます。