日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2006.04.30

やべみつのり氏の『ほねほねマン』とガイコツのおもちゃ

先日、当館友の会のやべみつのり氏が来館されました。やべさんは絵本や紙芝居の作家。『かばさん』、『ふしぎなまど』、『なんでないてるの?』など、やべさんが描くおおらかで情愛に満ちた世界を愛する方々も多いことでしょう。また、やべさんは、「ラオスのこども」をはじめ、世界の子ども達へのボランティア活動も熱心に続けておられます。私たちが初めてご訪問を受けたのは、8年ほど前のこと。4号館2階で世界の民芸玩具の展示をご覧になって、「ここには、創作の源泉がいっぱい!」とキラキラした視線を展示品に送られていたのが印象的でした。東京にお住まいですが、西日本のあちこちで開かれるワークショップや講演会のあい間をぬって来館され、ラオスの子ども達が手作りしたコマやボール、ぶんぶんゴマなどを寄贈して下さったこともありました。

やべみつのりさんご来館

先日の訪問時には、現在シリーズものとして制作中の紙芝居『ほねほねマン』の第2作目を携えておられました。「ほねほねマン」はガイコツです。1作目のほねほねマンは、空を飛べるし、バラバラになる特技もあり、ほねほね犬「ホネホネ」と仲良し。2作目では、ほねほねマンは虫歯になって歯医者さんを怖がる愛らしい姿を見せてくれます。やべさんから贈られたその紙芝居を、一昨夕、館にやってきた近所の子たちに見せたところ、ゲラゲラ、くすくす笑いながら楽しんでくれました。「ほねほねマーン、ヘンだけどおもしろ~い」と。―――ガイコツに対して、大人たちは不気味で恐いと感じがちですが、子ども達の方は尽きせぬ興味とある種の愛着を抱いているように思えます。やべさんの純な感性は、子ども達とそのまま通じ合っているみたいです。

紙芝居『ほねほねマン』(絵:やべみつのり/脚本:ときわひろみ 童心社刊)

「ここに、ガイコツのおもちゃはありませんか?」―――やべさんが『ほねほねマン』の第1作目を制作中、突然に来館されたことがありました。肉親の死を体験されたすぐ後だったそうで、死を象徴するものでもあるガイコツを物語の中でどう扱うべきか、玩具の世界ではどのように扱われているか知りたい・・・と、少々、考え込んでおられるご様子に見受けられました。―――「メキシコにはたくさんのガイコツ人形がありますよ!」そうお答えすると、やべさんの表情が急に輝きました。

メキシコでは、11月1日から2日にかけ、あの世から先祖の霊を迎える「精霊の日」の祭りが行われます。家々に祭壇がもうけられ、そこには花や食べ物とともに、賑やかに彩色されたカラベラ(=ガイコツ)の造形物が飾られます。街の露店には、カラベラをかたどった人形や砂糖菓子がずらりと並び、子ども達が群がります。ギターを弾くカラベラ、ボート遊びをするカラベラ、結婚式をあげるカラベラ・・・などなど、彼らが作るカラベラ人形は、どれも楽しげで「生」を謳歌しているように見えます。昔からメキシコには、死者をテーマにした芸術が数多く見られ、造形されるカラベラにはスペイン侵略に対する激しい怒りや悲しみが込められているといわれますが、そんなカラベラを見つめて、「彼らは私たちのアミーゴ(友だち)さ!」と明るく笑うメキシコ人。やべさんは、カラベラ人形に表現されるメキシコの人々の、悲哀をつきぬけたユーモアセンスに心打たれたご様子で、「なんだか、ガイコツたちに元気づけられましたよ。」と笑顔でそう話されました。

イヌイットの人々がつくるヘラジカの骨人形(カナダ)

メキシコのカラベラの他にも、やべさんは世界各地の動物の骨製玩具をたくさんスケッチしておられました。モンゴルの羊の脚の骨・シャガイ(お手玉/サイコロ)、北アメリカのイヌイットの人々がカリブーの骨で作るけん玉や人形、グリーンランドのブンブンごま・・・などなど。「玩具の世界には『ほねほねマン』の友だちがいっぱいいるんですね。」と。大昔、大陸で誕生した人類の最初の玩具は骨製だったと言われるぐらい、骨製玩具は永い歴史を持っているのです。

イヌイットの人々がつくるカリブーの骨のけん玉・アイヤガック(カナダ)

やべさんのように作品制作上の興味から玩具の世界を求められる方があるように、来館者それぞれが、様々な関心をもって来館されます。そうした方々と、時に一緒になって展示品を見つめることで、私たちは日ごろ見慣れている玩具の顔を、違った視点で見る機会に恵まれます。そして、ある一つの玩具が一人の来館者を勇気づけたり、笑顔にしたりする瞬間に立ち合うとき、「やっぱり、あなた達はすごい!」と、玩具のもつ底力を見直してしまうのです。

(学芸員・尾崎織女)


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