日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2005.12.11

「世界のクリスマス物語」へのお誘い

現在、6号館では、冬恒例の特別展「世界のクリスマス物語」を開催中です。昨年度は「クリスマスの造形」をテーマに、世界各地のキリスト降誕人形(イエスの誕生シーンを箱庭風に表現したもの)、キャンドルとキャンドルスタンド、クリスマスツリーと自然素材のオーナメント、クリスマスの贈り物配達人の4項目に分けて、造形の中に表現されるクリスマス行事の意味を探りました。本年度は、クリスマス飾りの地域的な特色をご覧いただくため、「北ヨーロッパ」「東ヨーロッパ」「南ヨーロッパ」「ドイツと中央ヨーロッパ」に、「中近東・アフリカ」「アジア・オセアニア」「北アメリカ」「中南アメリカ」を加えた構成になっています。

中でも、イスラエル、エジプト、ケニア、タンザニア、カメルーン、ナイジェリア、ジンバブエ、マダガスカル、南アフリカなど、中近東やアフリカ大陸の国々で作られたキリスト降誕人形が目を引いています。土、オリーブやローズウッド、バナナの皮、きびがら、真鍮、布やガラスビーズ・・・と作られる素材も様々、各国の民芸的手法が織り込まれてそれぞれに風格があります。幼子イエスもマリアもヨゼフも三人の博士も羊飼いも、民族の色と形を身にまとって素朴ながらに厳かです。それぞれの箱庭の世界では、一つの健やかな生命が、立派なお城の中の黄金のベッドではなく、世界の片隅ともいえるつつましい場所に誕生し、裕福ではない人々と賢い人々と物言えぬ動物たちに祝福されています。それでも、小さな人形の表情には、光がその場所を照らしていることに対する喜びがあふれ、これからを生きていく希望のようなものが漂っています。

ナイジェリアのキリスト降誕の馬小屋(木彫)
カメルーンのキリスト降誕人形(真鍮製)

ヨーロッパのクリスマスオーナメントの中から、麦わら細工や切り紙細工を取り上げ、一つ一つ手作りするワークショップも恒例となりました。また、毎年、11月から12月にかけての日曜日と祝日には、展示中のクリスマス飾りの中から、コーナーごとに代表的な作品を取り出して、それらが誕生した背景や造形的な意味についての解説を行なっています。

展示解説会の様子

解説会の中で、ドイツやスウェーデンのキャンドルスタンドに点火し、オルゴールの愛らしい音色がクリスマスキャロルを奏でると、20~30名ほどの聴講者は、小さな子どももお母さんもおじいさんも、皆、静かに澄んだ表情で、同じ一つのキャンドルの火を見つめます。―――クリスマス行事の意味について理解が深まったし、とても温かい気持ちになりました。――来館者は、それぞれの言葉でそんな嬉しい感想を残して下さいますが、皆がとり囲む穏やかな空間で展示物について話しながら、たくさんの方々と共に過ごす待降節(クリスマスを待つ時節)は、解説する私にとっても本当に幸せな季節です。

12月18日、23日、24日、25日には、午後2時から展示解説会を行なう他、午前11時からは、‘朗読のお姉さん’をお招きして、クリスマス絵本の朗読会を開催します。展示ケースの中に鎮座するクルミ割り人形(ドイツ)、キリスト降誕人形(イギリス)、ピニャータ(メキシコ)などが生き生きと活躍する物語を楽しんでいただくことで、各地のクリスマス玩具についての文化的背景がより豊かに感じられることでしょう。ぜひこの季節、日本玩具博物館をお訪ねいただき、ご家族と一緒にクリスマスの一日を温かくお過ごしいただきたいと思います。

(学芸員・尾崎織女)


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