日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2005.11.08

サスキア・フランケ・イシカワさんと東ヨーロッパの玩具

先週土曜日の午後、サスキア・フランケ・イシカワさんご夫妻の訪問を受けました。サスキアさんは、1992年以来の日本玩具博物館の友人です。久しぶりの再会に手を取り合った私たちは、ドイツの郷土玩具のこと、クリスマス展のこと、ヨーロッパの玩具博物館のこと、ここ数年、私たちが力を入れてきたワークショップのことなどを話しながら、館内を巡りました。

サスキアさんはドイツ人で言語学の研究者、現在は滋賀県在住です。来日された1978年頃、長野県野沢の「鳩車」と出あったサスキアさんは、シンプルでありながら卓抜したアイディアと繊細な感覚をもった日本の郷土玩具に惹かれ、一生懸命に収集を始め られました。そうして手元に集った数百点の郷土玩具コレクションを、1984年頃からルーマニアのクルージやハンガリーのケチキメートなど、東ヨーロッパの玩具博物館へ寄贈しておられます。サスキアさんによれば、ヨーロッパの玩具博物館は、日本の生活民芸に対して非常に興味をもっているというのです。

かの地の民芸玩具の情報や資料収集を熱望していた当館は、サスキアさんからのアドバイスを受けて1992年夏、民族博物館や玩具博物館宛に手紙を送り、互いの国に伝わる郷土玩具の交換収集を申し出ました。ハンガリーのケチキメート玩具博物館、ルーマニアのシビウ民族博物館から相次いで私たちの申し出に同意する返信をいただき、その秋から資料交換が始まりました。地域ごとに約30点ほどの郷土玩具を1パックとして、資料の詳しい情報を記したディスクリプションカード付きで送り出すと、交換資料として相手国の資料が同じほどのボリュームで届けられます。1990年代前半は、まだ東ヨーロッパの郵便事情が悪く、荷物の到着に3ヶ月以上がかかったり、打てば響くような意思疎通は難しかったりで、なかなかスムーズに進みませんでしたが、やがて、ケチキメート博物館からは素朴な風俗人形や土笛、仕掛け玩具、シビウ民族博物館からは春祭の玩具や新年祭の仮面人形など、貴重な資料が順番に入ってくるようになりました。商業主義が入り込んでいない東ヨーロッパの国々は、貧しいけれども、郷土色の濃い、近世的な民芸玩具がまだまだ多く残されているのです。

ハンガリー・ケチキメート玩具博物館(同館のサイトより)

日本玩具博物館の海外玩具収集には様々な人達がご協力下さっていますが、この頃から博物館同士の資料(情報)の交換収集という方法に私たちは大きな意義を感じ、その後も様々な国の博物館と積極的に関係をとり結んでいます。

さて、昨夏と今秋、サスキアさんは、彼女の手元に残っていた百数十点の日本の郷土玩具(昭和40~50年代製)を「ヨーロッパの玩具博物館との交流に役立てて」と寄贈して下さいました。その日本の玩具が詰まったボックスの中から、素晴らしいハンガリーの郷土玩具の一群が出てきたのです! 中でも、トウモロコシの茎や木の枝で十字のボディーを組み、それに木綿のはぎれをまとっただけの素朴な抱き人形(ラグ・ドール)群が子ども心に溢れておもしろく、それらは1980年代、ケチキメート玩具博物館が郷土人形の伝承会(ワークショップ)を開いた折に作られたものでした。

ハンガリーのケチキメートは中世以降、技術者として招聘されたドイツ人が中心になって街づくりを行った美しい都市です。しばらくご無沙汰しておりますが、久しぶりにケチキメート玩具博物館に連絡をとり、ハンガリーのクリスマスに登場する玩具やオーナメントについてお尋ねしてみたいと思っているところです。

「玩具は文化をうつす鏡。玩具を大切にすることは子どもと平和を愛すること」とは、サスキアさんが強調される言葉です。ドイツ人でありながら、民間レベルで日本の文化紹介に努め、私たちには同好の士として温かいアドバイスを下さるサスキアさん、彼女のような存在は、日本玩具博物館にとって大切な宝物だと思うのです。

(学芸員・尾崎織女)


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