「世界のクリスマス物語~クリスマスの暦をたどって~」 | 日本玩具博物館

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特別展

冬の特別展 「世界のクリスマス物語~クリスマスの暦をたどって~」

会期
2025年11月2日(日) 2026年1月25日(日)
会場
6号館

キリスト教世界の人々にとって、クリスマス(降誕祭)はイースター(復活祭)と並んで一年で最も大きな行事です。アドベント(=待降節/聖アンデレの日・11月30日に最も近い日曜日からクリスマスイブまでの4週間をさす)に入ると、家々の窓辺にはキャンドルの灯が揺らめき、伝承のオーナメント(=装飾)が美しく飾られて、町全体でクリスマス(降誕節)を待ち望む雰囲気を盛り上げていきます。聖バルバラの祝日(4日)、聖ニコラウスの祝日(6日)、聖ルチア祭(13日)、聖トーマスの祝日(21日)など、キリスト教の聖人を冠した祭礼が続き、各地それぞれに伝統的な行事を重ねながら、クリスマス=降誕節(25日)を迎えます。

きびがら細工のキリスト降誕人形「ベトレム」(チェコ)

古代ヨーロッパでは、太陽が力を失い、地上の生命力が衰えた冬枯れの季節に光の復活を願い、新年の豊作を祈る祭を行っていました。これは冬至祭や収穫祭として各地に伝えられていますが、キリスト降誕を祝うクリスマスは、こうした土着の信仰をとり込むことを通して、大きな行事へと発展していったと考えられます。クリスマス飾りに登場するキャンドルの灯や光を象徴する造形の美しさ、また麦わらや木の実など、実りを表現するオーナメントの多様性からも、クリスマスがもつ奥行の深さをうかがい知ることが出来ます。

25日のクリスマスから聖シルヴェスター(12月31日)、新年(1月1日)を含む12日間、各地それぞれのやり方で祝いを重ね、東方の三博士(三賢人)が訪れるエピファニー=公現節(1月6日)をもってクリスマスが終わりを告げます。日本の松の内と同様、この日にクリスマス飾りなどの一切をしかるべき方法で片付けます。

カショエラ土人形・三人の博士(ブラジル・バイーヤ州)

恒例となった当館のクリスマス展は、クリスマス飾りを通して世界各地のクリスマス風景を描き、この行事の意味を探る試みです。本年は、【クリスマスの暦をたどって】と【ヨーロッパのクリスマス~北欧を中心に】の二つの章立てでクリスマス人形や玩具、オーナメントの数々を紹介します。第一章【クリスマスの暦をたどって】では、「待降節のカレンダー」「聖ニコラウスの祝日」「太陽の復活を願う冬至祭」「イブの夜のクリスマスツリー」「贈り物配達人がやってくる」「キリスト降誕」「年越からエピファニーの祝いへ」「ユリウス暦のクリスマス」の8つの項目でクリスマスのもつ幅広い世界をご紹介します。

ツッヴェッチゲンメンレ——聖ニコラウスの祝日にやってくるニコラウスと天使と鬼(ドイツ・ニュールンベルク)


第二章【ヨーロッパのクリスマス~北欧を中心に】では、収穫を感謝し、太陽の復活を願う冬至の祭礼とキリスト降誕祭が融合した北欧(フィンランド・スウェーデン・ノルウェー・デンマークとバルト三国)のクリスマス❝ユール(Jul)❞を取り上げ、各地に伝承されるオーナメントを展示します。合わせて「中欧」「東欧」「南欧」のクリスマス飾りを展示し、本場ヨーロッパの多様なクリスマスの祝い方、その一端をご覧いただきます。

麦わら細工のヤギ「ヨウルプッキ」と「ヨウルトントゥ」(フィンランド)

展示総数 1000点

第一章【クリスマスの暦をたどって】

待降節のカレンダー

クリスマス(降誕節)を迎える準備期間を「待降節(アドベント)」と呼びます。キリスト教国では、待降節が巡ってくると、緑の葉で輪を作り、等間隔に4本のキャンドルを立てた「アドベント・クランツ」や「アドベント・キャンドル」が家庭に登場します。クリスマスを待つ4週間を表し、日曜日ごとに1本ずつ灯を増やし、その灯の下で家族揃ってキャロルを歌って祝います。
ドイツやデンマークでは、12月になると、子ども部屋に「アドベント・カレンダー」が飾られます。クリスマスの風景が描かれた絵の中に、1から24までの数字がついた窓があり、12月1日から毎朝、窓を開けていきます。めくる窓ごとに楽しい絵が描かれていて、クリスマスを待つ気持ちを高めてくれます。 

アドベントカレンダー・キリスト降誕(デンマーク)

聖ニコラウスの祝日

12月6日は、「聖ニコラウス」の祝日。ヨーロッパの多くの地域では、この日の前夜、子どもたちは、聖ニコラウスからプレゼントをもらいます。聖ニコラウス――ドイツやオーストリアではザンクト・ニコラウス、英語圏ではセント・ニコラウス、フランスではサン・二コラ、チェコやスロバキアではスェティ・ミクラーシュ、ポーランドではシウェンティ・ミコワイ、オランダではシンタ・クラース――は、紀元後3世紀、ミュラ(現在のトルコ)の司教として尊崇を集めた聖人です。情け深く、子どもや貧しい人々のために、贈り物や金貨を授けるなど、聖ニコラウスには、数々の伝説があります。ニコラウスが没したとされる12月6日、心優しい聖ニコラウスの故事に、古代の冬至祭に新年の豊穣を願って人々が贈り物を交換していた習慣が溶け合って、贈り物配達人の物語が誕生しました。
聖ニコラウスには、子どもたちを叱って行いを改めさせる厳格な司教のイメージもあり、また地域によっては異教時代の風習も合わさって、鬼と天使を連れ、お仕置き用のムチとプレゼントの両方を手にする聖ニコラウスも見られます。

きびがら細工の鬼「チェルト」(チェコ)ときびがら細工の聖ミクラーシュ(スロバキア)

太陽の復活を願う冬至祭

北半球では、アドベント(待降節=降誕節「クリスマス」を待つ時節)に入ると、冬至(12月21日あるいは22日)に向かって力を弱めていく太陽を元気づけようと、薪(ユール・ログ/ビュッシュ・ド・ノエル)に火が放たれ、キャンドルに火がともされます。とくに日照時間の短い北部ヨーロッパや中部ヨーロッパのクリスマスには、太陽の光を象徴する造形の数々が登場します。
スウェーデンでは、12月13日、「聖ルチア」に扮した少女たちが、生命の源を表わすキャンドルを点した王冠を被り、手にもキャンドルをいただいて行進する「聖ルチア祭」が行われます。
点された火を赤く暖かく見せるための工夫がなされたキャンドルホルダーや、火の熱によって、プロペラを回転させ、季節のめぐりに力を与えようとするピラミッド型のキャンドルスタンドなどにも、太陽の復活への願いが込められているようです。


イブの夜のクリスマスツリー

モミの木にオーナメントを飾る習慣は17世紀のアルザス地方で始まったと考えられています。初期のころは果物やお菓子、木の実や麦わらなど植物に関するものが多く、収穫祭との深い結びつきも感じられます。やがて、木工細工や硝子細工、錫細工など各地の手工芸と結びつき、美術的に優れた品々も誕生しています。ヨーロッパの家庭では、一般に大人たちがイブ(12月24日)までにクリスマスツリーを完成させ、クリスマス当日に子どもたちにお披露目されます。日本とは異なり、クリスマスツリーは、12日間のクリスマスの祝いを終えるエピファニー(1月6日)まで飾られます。

硝子細工のクリスマスツリーオーナメント(フランス・アルザス地方)

  

贈り物配達人がやってくる

聖ニコラウスが贈り物を届けるというヨーロッパの風習をもとに、トナカイのひく橇にのって空をかけてくるサンタクロースのイメージが形成されたのは、19世紀のアメリカ合衆国です。――聖ニコラウスのオランダ語読み「シンタ・クラース」が名前の由来とされ、今では、世界中の空をアメリカ育ちのサンタさんが走り回っています。
サンタクロース以外にも、クリスマスから新年にかけて、北欧のトムテやニッセ、ヨウルプッキ、ウクライナのジェド・マロース、イタリアのベファーナおばさん・・・など、国や地域によって様々な成り立ちをもつ贈り物配達人たちが活躍しています。

キリスト降誕

キリスト降誕風景を表わす箱庭風の人形群は、中世の宗教熱の、イタリアで作られ始めたクリスマス飾りです。馬小屋の飼葉桶に誕生した幼子イエス、見守るマリアと夫のヨゼフ、誕生の知らせを聞いて駆けつけた羊飼い、東方から捧げ物(乳香と黄金と没薬)を持ってやってきた三人の博士(メルキオール・ガスパール・バルタザール)、さらに天使や村人たちなどによって構成されます。識字率が低く、聖書が読める人たちが少なかった時代、クリスマスの意味を広く大衆に知らせるため、時間経過を追って、アッシジの僧侶が人形を増やしながら物語っていったと伝わります。  
人形たちの表情を観察すると、それらを作る民族の表情がよく映れていて驚かされます。それぞれの箱庭の世界では、ひとつの健やかな生命が黄金のベッドではなく、世界の片隅ともいえるつつましい場所に誕生し、裕福ではない人々(=羊飼い)と、賢い人々(=東方の三博士)と、物言えぬ動物たちに祝福されています。それぞれの人形には、生命の尊厳が表現されています。  
イタリア、スペインをはじめ、カトリック信仰が篤い南欧では、クリスマス飾りといえば、キリスト降誕人形「プレゼピオ」をさします。南欧ほどに盛んではありませんが、イギリスやアメリカ合衆国では「クリブ」、フランスでは「クレーシュ」、ドイツやスイスでは「クリッペ」、チェコなどでは「ベトレム」と呼ばれて、大小様々な箱庭が家々で大切に保存され、また中南米やアフリカの国々でも、土着の信仰や風俗と混合したユニークなキリスト降誕人形が見られます。

キリスト降誕人形・トナラのナシミエント(メキシコ)


年越からエピファニーの祝いへ

クリスマスシーズンは年が明け、1月6日の公現節(エピファニー)まで続きます。東方の三人の博士が、ベツレヘムの幼子イエスのもとを訪れ、贈り物を捧げた日とされ、この日にクリスマスを祝い、三人の博士からプレゼントをもらう国や地域もあります。クリスマスシーズンは冬至祭や収穫祭に起源をもつように、一年の重要な節目です。教会でキリストの降誕を祝う一方で、新年の繁栄と平安を祈る行事が各地で行われてきました。

年越祭「ビフライム」の人形(ルーマニア・モルドヴァ地方)


ユリウス暦のクリスマス

ユリウス暦12月25日は、グレゴリオ暦の1月7日にあたり、東方正教会に属する国々、——セルビア、モンテネグロ、ウクライナ、ロシア、ベラルーシ、ボスニア・ヘルツェゴビナの一部、エジプトやエチオピアなどでは、1月7日にクリスマスが祝われます。ただ、ウクライナでは政治的な意図から、2023年、ゼレンスキー大統領らによってグレゴリオ暦12月25日が公的な祝日に定められたのだとか。

第二章【ヨーロッパのクリスマス~北欧の中心に】

北欧のクリスマス

冬の間はほとんど陽がのぼらず、雪や氷に閉ざされる北欧の国々にあっては、太陽の復活を願う民俗信仰が根深く生き続けてきました。太陽が死に向かっていく季節に大挙して現れる死者の霊をなぐさめるために、人々は特別な食物を準備し、神話の神々、なかでもオーディンの神に豚や猪などを捧げて新年の豊穣を願いました。太陽の再生を願う冬至の祭礼は“ユール”と呼ばれ、13世紀ごろにはキリスト降誕祭と結びついて、クリスマスの行事を表わす言葉となりました。暗く厳しい北欧の冬、人々は、太陽を象徴するキャンドルを窓辺に点し、清らかな行事の雰囲気を盛り上げて行きます。
室内で過ごす時間の長さから、手工芸が発達し、クリスマス飾りにも、切り紙細工や麦わら細工、白樺の皮細工、柳の皮細工などが数多く見られます。家の守り神として親しまれているトムテ(スウェーデン)やトントゥ(フィンランド)たちが愛らしい人形として登場し、麦わらで細工された大小のヤギが町中を彩ります。

麦わら細工のクリスマスツリーオーナメント(スウェーデン)


中欧のクリスマス

ドイツ、オーストリアなど中部ヨーロッパにおいても、待降節の平均日照時間は1~2時間。冬枯れの町には寂しさを払うようにモミの木の緑とキャンドルの光が溢れます。町々の広場にはクリスマス飾りを売るマーケットがたち並び、細工を凝らしたオーナメントの数々が人々を温かく出迎えます。きらきら輝く麦わらの窓飾りや経木のツリー飾りも「光」を表現したものです。
ドイツのクリスマスにプレゼントを運ぶのは、聖ニコラウスやヴァイナッハマンと呼ばれる聖人ですが、地域によっては鬼を従えてやってきます。クリスマスツリーの本場とあって、豊富な造形が見られる地域です。また、クルミ割り人形や煙だし人形、「光のピラミッド」の名で親しまれるユニークなキャンドルスタンド、キリスト降誕人形「クリッペ」など、“おもちゃの国”ならではのクリスマス飾りを一堂に紹介します。

くるみ割り人形(ドイツ・エルツゲビルゲ地方)


東欧のクリスマス

東欧では、冬至祭や収穫祭に結びついた民族色豊かなクリマスが祝われています。チェコやスロバキア、ハンガリー、セルビアの麦わらやきびがら(トウモロコシの皮)、木の実細工のツリー飾りには収穫祭との深い結びつきが感じられます。パン生地を細工し、焼き締めて作られるチェコのオーナメントや日本の正月の注連飾りを想わせるセルビアの麦わらとオークの枝を束ねたオーナメント「パドニャック」などには、キリスト教が根付く以前からの民間信仰が表現されているようです。
また、木綿レースや硝子細工のツリー飾りは、東欧伝統工芸の素朴さと繊細さを伝えています。

パン細工のクリスマスツリーオーナメント(チェコ)


南欧のクリスマス

イタリアをはじめとする南欧のクリスマスには、“サトゥルナーリア” と呼ばれる賑やかな収穫祭の薫りが残されているといいます。また、カトリック信仰が篤いイタリアは、キリスト降誕人形の発祥した地であり、大小様々な降誕風景の箱庭を見ることができます。イタリアやポルトガルからは「プレゼピオ」、スペインから「べレーン」「ナシミエント」、フランスからは「クレーシュ」と呼ばれる降誕人形を展示します。

キリスト降誕人形・クレーシュ(フランス・プロヴァンス地方)

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