「世界のクリスマス*喜びの造形」 | 日本玩具博物館

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特別展

冬の特別展 「世界のクリスマス*喜びの造形」

会期
2023年11月11日(土) 2024年1月28日(日)
会場
6号館

後援:姫路市

キリスト教世界の人々にとって、クリスマス(降誕祭)はイースター(復活祭)と並んで、一年でもっとも大きな宗教行事のひとつです。クリスマスは、キリストの降誕を祝う行事に違いありませんが、その祝われ方をみると、ヨーロッパが伝えてきた自然観や民俗、また古い民間信仰が行事の中に、深く溶け合っていることがわかります。

古代ヨーロッパでは、太陽が力を失い、地上の生命力が衰えた冬枯れの季節には、生命の源である太陽の復活を願い、新しい年の豊作を祈る様々な儀礼を行っていたと考えられています。これは冬至祭や収穫祭、さらに新年を祝う祭事として今も各地に伝えられていますが、キリスト降誕の祝日は、太陽の再生を祝い、豊穣を願う土着の信仰をとり込むことを通して大きな行事へ発展したものと考えられます。

窓飾り・麦わら細工の太陽(ドイツ・ドレスデン/1990年代)

ヨーロッパのクリスマスを彩るキャンドルの灯や光を象徴する造形の美しさ、またリンゴや木の実、麦わらやきびがら(トウモロコシの皮)など、豊かな実りを表現するオーナメント(=装飾)の多様性からも、クリスマスがもつ意味をうかがい知ることが出来ます。やがて、クリスマスの行事はキリスト教の普及とともに世界各地へと拡がり、それぞれの土地の民間信仰や冬の習俗と結びつくことで定着し、アメリカでもアフリカでもアジアでも、ユニークなクリスマスの造形が花開きました。ヨーロッパだけでなく、中近東地域でもアメリカ大陸でも、またアジアの国々でも、それぞれに違ったかたちで、新たな年の豊かであることを祈る祭事が行われていたからではないでしょうか。

チンツンツァンの麦わら細工・天使(メキシコ・ミチョアカン州/1970年代)
きびがら細工のキリスト降誕人形「ベトレム」(チェコ/1980年代)

 恒例となった当館のクリスマス展は、クリスマス飾りを通して世界各地のクリスマス風景を描き、この行事の意味を探る試みです。本年は、世界55ヶ国のクリスマスに登場するオーナメントを、北ヨーロッパ、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、南ヨーロッパ、北部アメリカ、中南部アメリカ、アジア、アフリカの8つの地域に分けて展示し、各地のクリスマス飾りの特徴を紹介します。本場ヨーロッパの伝統あるオーナメントはもちろんですが、今回は、メキシコやペルー、ブラジルなどラテンアメリカ諸国の民芸的なクリスマス造形がみどころです。

西室展示風景 「北欧」「東欧」「中欧」のクリスマス
東室展示風景 「南欧」「中南米」「北米」「中近東・アフリカ」「アジア・オセアニア」のクリスマス


新たな光を讃え、小さな生命の輝きを祝い喜ぶクリスマスーー世界各地の民族色豊かなクリスマス飾りを通して、クリスマス文化の奥行の深さを感じていだければと思います。

展示品総数 世界55ヶ国1100点


<北ヨーロッパのクリスマス> 

冬の間はほとんど日が昇らず、雪や氷に閉ざされる北欧にあっては、太陽の復活を願う民間信仰が根深く生き続けてきました。太陽が死に向かっていく季節には、地下に眠る死者の霊や悪霊、魔女などが大挙してこの世に現われてくると考えられていました。人々は、それらの霊をもてなすために特別な食べ物を準備し、また、古くから伝わる神話の神々、なかでもオーディンの神に豚や猪などを捧げて新たな年の豊かであることを願いました。一年で日照時間のもっとも短い冬至は、一度没した太陽が再び力強い生命力を得る起点でもあり、祭事を盛んに行うことで、よみがえった太陽を元気づけ、来たる一年の豊穣を願ったのです。この祝祭は「ユール(jul)」と呼ばれましたが、13世紀ころには、キリストの降誕祭と結びつき、ユールはクリスマスの行事全体を表す言葉となりました。

暗く厳しい北欧の冬、人々は、太陽の暖かな光を象徴するキャンドルを窓辺に点し、清らかな行事の雰囲気を盛り上げていきます。室内で過ごす時間の長さから、木工芸や手芸が発達し、クリスマス飾りの中にも、切り紙細工や麦わら細工、白樺の皮細工、柳の皮細工などが数多く見られます。また、家の守り神として親しまれているトムテ(スウェーデン)やトントゥ(フィンランド)たちが愛らしい人形となって登場し、ユール・ボックなどと呼ばれるヤギが麦わらで細工されて町中を彩ります。

北欧のクリスマス 展示風景


<中央ヨーロッパのクリスマス>

ドイツ、オーストリア、イギリスなどの中央ヨーロッパにおいても、クリスマス・アドベント(=待降節)の平均日照時間は1~2時間。冬枯れの町にはモミの木の緑とキャンドルの光があふれます。クリスマスツリーの発祥地域(※中世のアルザス地方(当時はドイツ/現在はフランス)で誕生したとされています)とあって、町の広場にはモミの木やツリー飾りを売るマーケットが立ち並び、細工をこらしたオーナメントの数々が人々を温かく出迎えます。輝く麦わらの窓飾りや経木のツリー飾りは 「光」をイメージしたものです。

ドイツはヨーロッパを代表する「おもちゃの王国」です。ドイツでは、近世社会が円熟する18世紀後半頃から家内工業が発達し、各地で郷土色豊かな玩具製造が始まりました。ゾンネベルクを中心とするチューリンゲン地方では錫や木、紙を材料に、オーバーアマガウやベルヒテスガーデンをはじめとする南ドイツ地方では森林資源を生かして、チェコと国境を接するエルツゲビルゲ地方では、地域の歴史を刻む木製玩具が数多く生み出されていました。
エルツゲビルゲ地方には今もザイフェンやグリューンハイニヒェンなどのおもちゃ村があり、幾百もの工房がマイスター(熟練工)を中心に伝承の玩具作りに取り組んでいます。クリスマスを彩る「光のピラミッド」や「煙だし人形」のユニークな仕掛けは、今も世界中の人々を魅了し続けています。ドイツで発達したクリスマスツリーのオーナメントやキャンドルスタンド、クリスマス人形――クルミ割り人形、聖ニコラウスやヴァイナッハマンの人形、キリスト降誕人形(=クリッペ)、煙出し人形など――を紹介します。

ドイツのクリスマス 展示風景


<東ヨーロッパ>

東欧では、冬至祭や収穫祭に結びついた民族色豊かなクリマスが祝われています。チェコのパン細工のオーナメント「ペルニーク」やポーランドの「ピエルニク」、また、スロバキアのきびがら細工、チェコやハンガリー、ベラルーシなどの美しい麦わら細工などからは、この季節に各地で行われてきた収穫感謝祭との深い結びつきが感じられます。

セルビアの「パドニャック」と呼ばれるオークの木の枝と麦穂を束ねたオーナメントは、クリスマスから新年にかけて、家々の門などに飾られるもので、正月を迎える日本のしめ飾りを想わせます。クリスマス行事のなかに、新たな太陽とともに始まる年が豊かであるようにと願う古い信仰が横たわっています。オークは木の実を生み出す森の王様。麦作が行われる以前のヨーロッパにおいて、木の実は大切な冬の食べ物だったのです。そのオークの枝と麦わらの組み合わせは、人々を養う栄養の象徴といえます。
チェコの繊細な硝子細工のツリー飾りやハンガリーのレース細工などは、東欧伝統手工芸の美を伝えてくれます。

東欧のクリスマス 展示風景


<南ヨーロッパ>

イタリアをはじめとする南欧のクリスマスには、 賑やかな収穫祭「サトゥルナーリア」の薫りが残されているといいます。一方で、カトリック信仰が篤いイタリアは「プレゼピオ」と呼ばれるキリスト降誕人形の発祥地であり、大小様々な降誕風景の箱庭を見ることができます。
今もクリスマス・アドベントに入ると、イタリアやポルトガルでは「プレゼピオ」、スペインでは「べレーン」「ナシミエント」、フランスでは「クレーシュ」「サントン」などと呼ばれる降誕人形が教会や各家庭に飾られます。南欧各地のクリスマスマーケットをめぐると、プレゼピオやクレーシュを完成されるためのマリアやヨゼフ、幼子イエス、天使、羊飼い、三人の博士、村人、牛や馬、羊などの人形たちが数多く売られています。このような風景に出合うとき、南欧のクリスマスは、キリスト降誕としての色が濃いことがとく感じられます。イタリアにクリスマスツリーが盛んに飾られるようになったのは第二次世界大戦のこと。アメリカ合衆国から進駐してきた兵士たちが伝えたともいわれています。

南欧のクリスマス(フランスを中心に)展示風景


<北部アメリカ>

家族団欒を大切にするアメリカのクリスマスは、手作りの味わいに満ちています。オーナメントや待降節のカレンダーも家庭独自の品が選ばれ、温かな雰囲気が漂います。トルコ生まれの聖人・ニコラウスの祝祭をベースに、クリスマスのプレゼント配達人「サンタクロース」を誕生させ、世界各国に広めた国らしく、北アメリカのクリスマス飾りには、ユニークな姿態のサンタクロース人形が繰り返し登場します。


<中南部アメリカのクリスマス>

中南部アメリカの国々では、南欧が支配した時代にもたらされたキリスト教と土着信仰とが融合し、民族色豊かなクリスマスが祝われます。先住民が製作した降誕人形(メキシコ・コロンビア・ペルー)や植物繊維を編みこんだツリー飾り(エクアドル)、毛糸細工やブリキ細工のオーナメント(メキシコ)、「ピニャータ」と呼ばれるクリスマスパーティー用のくす玉など、ヨーロッパとはひと味違ったクリスマス造形を紹介します。

メテペックの生命の樹の燭台(メキシコ・メキシコ州/1980年代前半)

南欧の影響を受けた地域らしく、キリスト降誕人形が盛んに飾られ、また1月6日の公現節(エピファニー)に登場する三人の博士を題材にした造形も目立ちます。

中南米のクリスマス展示風景 ペルーの大型「レタブロ」を2組を展示しています


<アジアのクリスマス>

ヒンズー教や仏教などを信仰する国々にあっても、国内のキリスト教徒のため、あるいは輸出用として、ユニークなクリスマス飾りが製作されてきました。ヨーロッパでは、ツリー飾りには赤い林檎、トナカイ、馬、鳩、モミの木がモチーフとなるところ、南アジアではパイナップル、象、魚、クジャク、ヤシの木と、身近な題材が登場するあたりには、文化の融合と土着化が感じられます。


<中近東・アフリカのクリスマス>

聖書の読めない人々にクリスマスのメッセージを伝えるため、中世のイタリアで始められたキリスト降誕劇の箱庭風人形飾りは、カトリックの普及とともにアフリカへ入ると、その地の人々をモデルに、またその地の伝統工芸をベースにユニークな造形へと変化を遂げました。
パレスチナやイスラエル、ヨルダンなどの中近東地域、タンザニア、ケニアの東アフリカ地域、ジンバブエや南アフリカ、マダガスカルの南アフリカ地域、カメルーンやナイジェリアの西アフリカ地域のそれぞれからキリスト降誕の風景を表す人形群を紹介します。


<会期中の催事>
ギャラリートーク(展示解説会) 自由参加制(入館料が必要)
恒例の展示解説会では、世界各地のクリスマス飾りの特徴について、当館学芸員が展示品を取り出してご案内いたします。
日時=11月23日(木・祝)・12月3日(日)・10日(日)・24日(日)   
※各回14:30~

クリスマスワークショップツリー飾り・毛糸細工の太陽を作ろう!
申込制(定員20名)
メキシコ・ナヤリト州に居住するウィチョルの人々の間には「オーホ・デ・ディオス(神の目)」と呼ばれる毛糸細工のオーナメントが伝承されています。子どもたちが健康に育つことや、食べ物を充分に得て生活が成り立っていくことを願って祭礼時の空にかかげられるもの。一方、バルト三国のひとつ、ラトビアのクリスマスに飾られる「サウリーテ(太陽)」は、「オーホ・デ・ディオス」と共通性をもつ造形です。今冬のワークショップでは、冬至を過ぎて生まれ変わる太陽を讃える喜びのオーナメント・サウリーテを作り、講座室の窓を飾ります。作品はお持ち帰りください。 
申し込み制です。電話やメールなどで早めにお申し込みください。
日時=12月9日(土) 13:30~15:00 
会場=6号館2階講座室 
指導=当館学芸員
参加費=500円(館内見学には、別途入館料が必要です)

クリスマスワークショップ麦穂とハートのオーナメント
申し込み制(定員12名)
麦穂にはその年の麦を実らせた穀物霊が宿るとされる伝承がヨーロッパ各地にあり、クリスマスに登場する麦わら細工には新たな年の豊かな実りへの願いが込められるといわれます。スイスなどの伝統的なオーナメントを参考に麦穂とハートのオーナメントを作り、皆で窓辺に飾り付けます。作品はお持ち帰りください。
申し込み制です。←応募が定員に達しましたので、募集を締め切らせていただきました。
日時=12月10日(日) 11:00~12:30 
会場=6号館2階講座室
指導=当館学芸員
参加費=400円(館内見学には、別途入館料が必要です)

クリスマス絵本朗読会 自由参加制(入館料が必要)
クリスマス人形やクリスマス飾りが登場するクリスマス絵本の世界を、倉主真奈さんの朗読とともにご案内します。下記の日時、6号館特別展示室へお集まりください。
日時=12月17日(日)  13:30~ /15:00~
会場=6号館特別展示室



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