「コヨテペックの黒陶笛」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

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2023年10月

「コヨテペックの黒陶笛」

  • 1980年代
  • メキシコ・オアハカ州/土

陶芸に木彫、染色に織物、刺繍に金属工芸…。メキシコ南部に位置するオアハカ州は、西部ミチョアカン州やゲレロ州などと並んで民芸の宝庫です。オアハカ市周辺の町や村をめぐるだけでも、その地独自の様々な民芸に出合えるといいます。そのような町のひとつにサン・バルトロ・コヨテペックという町があり、独特の光を放つ黒い陶器(Barro Negro)で知られています。

コヨテペックでは、今も多くの人々が陶芸に携わり、壺や鍋、ランプシェイド、マスク、ベルや楽器など、様々な黒陶器が作られています。利根山光人著『メキシコ民芸の旅』(平凡社・1976年刊)によると、この黒陶の独特の輝きは、粘土に含まれる酸化鉛と先コロンビア期(ヨーロッパの影響を受ける以前)から伝わる陶器の研磨技術によって得られるものだといいます。焼成する前に表面を瑪瑙(めのう)石で数日かけて丁寧に磨くことで、陶器に光沢が生まれるのだと。

コヨテペックの黒陶作品のなかに、手のひらに乗るサイズの笛があります。動物や鳥、天使やディアブロなど、様々な題材が手ひねりで造形され、集めてみると、同じ鳩笛や鶏笛でも、ひとつとして同じものはありません。手のひらに包んだ時の手触りの良さや光を湛えた灰黒色はもちろん魅力的ですが、それぞれの姿態に生命感が宿っていること、また黒陶笛のどこかに指孔が設けられていて、開閉しながら吹き鳴らすと、鳥がさえずるような、動物が高く啼くような、美しい音色が響き渡ることも大きな美点です。

コヨテペックの黒陶笛は、現在、開催中の「メキシコと中南米の民芸玩具展」に展示しており、展示解説会では、その音色をお聴きいただけます。

(学芸員・尾崎織女)