「カルアルの小さなキリスト降誕人形」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

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2023年11月

「カルアルの小さなキリスト降誕人形」

  • 1990年代
  • ブラジル・ペルナンブコ州/土

ブラジル北東部ペルナンブコ州の内陸部、カルアル(Caruaru)市は、民芸玩具の世界では個性的な土人形を産することでよく知られています。カルアル市の郊外、アルト・ド・モウラ(Alto do Moura)の町がその中心地で、今も多くの作者によって大小様々な土人形が作られています。カルアル地方の土人形は各地の博物館施設で紹介されるほか、都市部の民芸店や市場などへも多数出品されていて、ブラジルの人々に愛されていることがよくわかります。粘土色そのままの農夫もあれば、鮮やかに彩色された祭礼の風景もあり、高さ30~40㎝の比較的大きなものから、2㎝にも満たないミニチュアも見られます。ペルナンブコの英雄、キリスト教の聖人や悪魔、農村で生きる人々・・・、いずれも手ひねりで伸びやかに造形され、丸く小さな目の表現が特徴的です。

この地方の土人形は、ヴィタリノ・ペレイラ・ドス・サントス(1909-63)の作品を基礎として発達しました。ヴィタリノは、幼いころから、母親の手元を真似て小さな牛や馬を作り、それらは町の市場などでも売られるようになったそうです。結婚後、16人の子どもをもうけたヴィタリノは、アルト・ド・モウラの町へ移ると、彼の土人形づくりは日増しに拡大します。自分たちの姿や思いを表現する彼の作品は住民から注目を受け、なかにはヴィタリノに技術を学んで土人形づくりに取り組む人々も現れます。ヴィタリノの作品が有名になったのは1940年代。ペルナンブコ州の陶芸展に出品して名声を得、サンパウロ美術館などでも彼の作品展示が行われました。ヴィタリノの有名作品には、牛に乗ったカップル、土地を耕す家族、英雄ランピオンなどがあります。

当館は、日伯修好100周年にあたる1995年、招待を受けてサンパウロ、クリチバ、リオデジャネイロの三都市で「日本の伝統玩具展」を開催しました。その準備やワークショップ開催、巡回移動などに際して、4度、渡伯する機会を得、リオデジャネイロ郊外のカーサ・ド・ポンタル美術館やエディソン・カルネイロ民族博物館などの民衆芸術をテーマとする博物館では、創始者・ヴィタリノの、作ることの楽しさに満ちあふれた作品群に出合うことができました。また、各地の市場などを訪問して、1990年代の作家たちによるバリエーション豊かな作品群を入手することで、カルアルの作家たちがヴィタリノの作風を受け継ぎ、それぞれの個性をプラスしながらも、全体として産地独自の様式を守り続けていることもよく感じられました。


キリスト降誕の場面を表す小さな人形群「プレゼピオ(Presépio)」は、カルアル市アルト・ド・モウラで作られ、サンパウロの日曜市に並べられた数々の作品のなから、クリスマス展で紹介したく思って購入してきたものです。

舞台はベツレヘムの馬小屋。人形たちはいずれも高さ3~4㎝ほどです。青いローブを被って手を合わせるマリアも赤い衣装のヨゼフも、緑の飼い葉桶に寝かされた幼子イエスも、羊を連れた羊飼いも東方から三人の博士も、両手を挙げてイエスの降誕を祝福する天使も、くるりとして白目がちの、驚いたような目が愛らしい。欧米のキリスト降誕人形には、馬や牛、羊などとともにヤシの木がつけられるところ、ここでは2本のサボテンがブラジルらしさを表現しています。1990年代、巨匠ヴィタリノが世を去って30年を過ぎたころの品ですが、後継者によって受け継がれたカルアル土人形の特徴がよく表れ、魅力的なミニチュアです。ブラジルの民芸好きの家庭のなかでクリスマス「ナタウ(Natal)」を祝って子どもたちともに飾られ、楽しまれる作品でしょう。

本作品は、10月29日までは特別展「メキシコと中南米の民芸玩具」で、11月11日からは「世界のクリスマス*喜びの造形」でご覧いただけます。

(学芸員・尾崎織女)