「タビビトノキの下のキリスト降誕」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2022年12月

「タビビトノキの下のキリスト降誕」

  • 1990年代
  • マダガスカル/木(紫檀)

キリスト降誕人形は、ヨーロッパ中世の宗教熱の中、イタリアで作られ始めた箱庭風のクリスマス飾りで、馬小屋の飼葉桶に誕生したイエス、見守るマリアとヨゼフ、誕生の知らせを聞いて駆けつけた羊飼い、東方から捧げ物を持ってやってきた三人の博士などの人形によって、キリスト聖誕の物語を再現していくものです。聖誕の箱庭人形は、キリスト教の広がりとともに、世界中で親しまれており、製作地の人々の表情や習俗がよく表現されています。

フランスを通じてキリスト教を受容したマダガスカルでは、クリスマスに「クレーシュ(crèches)」と呼ばれる聖誕人形を飾ります。様々な素材を用い、様々なデザインの聖誕物語が作られますが、このクレーシュは、おくるみに包まれて飼い葉桶に眠る幼子イエス、両手を広げて誕生を讃える聖母マリアと夫のヨゼフ、そして二匹の羊が、マダガスカル島特産のローズウッド(紫檀)で彫刻されています。木を切った時、ほのかにバラの香りが立つことからローズウッドの名が付けられました。バラは聖母マリアを象徴する花。まさにクレーシュを刻むにふさわしい素材です。

聖家族を見守る樹木はマダガスカル島を象徴するタビビトノキ。タビビトノキは舟の櫂のような形をした葉が左右対称に広がるため、まるで扇のようです。タビビトノキは、クレーシュを見る者のまなざしを、扇の根元で誕生した小さな生命へと導きます。

このクレーシュは、1990年代の終わり、フランスを旅していた当時の学芸スタッフが街角の民芸店で見つけたものです。「少し高価だけれど、どうしましょう?!」と国際電話があり、なかなか出合えるものではなので、ぜひ!とお願いして購入してもらいました。当時から、欧米では第三諸国の民芸を愛好する人たちがあり、そんな彼らのために輸入された品だったのでしょう。のちに日本へも同種の紫檀製キリスト降誕人形がマダガスカルから輸入され、当館はいくつかのクレーシュを入手するところとなりました。

タビビトノキの下のキリスト降誕人形は、現在開催中の「世界のクリスマス*祈りの造形」のなか、アフリカ大陸のキリスト降誕人形とともに展示していますので、他の国々の資料とともにご覧ください。

アフリカ大陸各地のキリスト降誕人形

(学芸員・尾崎織女)