今月のおもちゃ
Toys of this month「きびがら細工の人形たち」
●トウモロコシの実を食べるとき、実を覆っている皮を捨ててしまうのではなく、ひと晩、紙などに挟んで大事に形を整えておくと、その皮を使って人形が製作できます。
●日本では江戸時代からトウモロコシの皮“きびがら”を細工して姉さま人形が作られ、少女たちの手遊びとなっていました。鳥取や和歌山など、郷土玩具として伝えられた地域もあります。
●世界からきびがら細工の人形を集めてみると。チェコ、スロバキア、セルビア、ハンガリー、イタリア、メキシコ、エクアドル、ブラジル、アルゼンチン、アメリカ合衆国南部、ケニア、タンザニア、ネパール、中国など、トウモロコシを食べる地域ならどこにもあるのかと思えるほど、多くの国々に愛らしい人形が伝承されています。
●穀物を豊かに実らせた穀物霊は、役割を終えた後もその皮や殻の中に宿り続ける――このような考え方、感じ方は、アジアやヨーロッパをはじめ、世界で広く知られ、トウモロコシを主食に近い食物とする地域においては、きびがらもまた大切に扱われてきました。きびがら人形はそれぞれの国のファッションを映して見るものの目を楽しませてくれますが、その背景には豊かな実りに感謝し、豊作を願うという、世界共通の心情が込められているようです。
●商品になった人形を知らないかつての農村などでは、食べた後のトウモロコシの芯に古布を巻き付けて、子どものための手遊び人形が作られていました。19世紀後半、アメリカ合衆国の西部開拓時代を描いた物語『大草原の小さな家』(ローラ・インガルス・ワイルダー著/1935年出版)には、現金収入の少ない開拓民の家で育つ少女ローラが大事にしていたトウモロコシの芯の人形が登場します。芯の周りにハンカチを巻き付けただけの素朴なものでしたが、ローラは「スーザン」と名付けて愛しんでいました。
●この画像はハンガリーのケチキメートに伝承されるトウモロコシの芯の赤ちゃん人形で、ケチキメート玩具博物館のワークショップで製作された作品です。―――ケチキメートの赤ちゃんを見る度、ローラが可愛がっていた「スーザン」が想われます。
(学芸員・尾崎織女)