日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2023年3月

「姫路押絵の段飾り雛」

  • 昭和10年代(1930~40年代)
  • 兵庫県姫路市・石田鶴子(秀鶴)作/絹布・綿・厚紙

「押絵」は、人物や花鳥などの形を厚紙で作り、これに綿を含ませて布を張ると、全体をまとめて半立体的な形を作っていく手芸の伝統的な手法です。奈良時代に中国から渡来したといわれますが、庶民の間で流行するのは江戸時代のこと。文化文政(1804~30)の頃には押絵の技法は発達し、羽子板にも盛んに使用されました。

押絵が庶民に愛された江戸時代後期は、雛まつりの隆盛期に当たり、日本各地で押絵の雛人形製作も行われていました。全国各地の城下町にそれぞれ特徴的な押絵の製法が伝わり、秋田県横手市、山形県鶴岡市、長野県松本市、福岡県久留米市などが有名です。

城下町姫路でも古くから押絵の技術が発達し、贈答用の「押絵羽子板」や画面を押絵によって形づくる「ノゾキカラクリ」なども昭和時代のはじめころまではよく知られていたようです。姫路押絵は、芯となる型に綿をたくさん詰めてあるため、立体感に優れています。現在の姫路押絵と呼ばれるものの創始者は、姫路市立町に生まれた宮沢由雄(昭和19年に74歳で没)。京都で修行し、明治時代の中ごろからこの地で押絵製作を始めます。技能に秀で、数々の優れた作品を遺し、献上の栄にも浴しています。

春の特別展「雛まつり~江戸から昭和のお雛さま~」のなかでご紹介する姫路押絵の段飾り雛は、宮沢の長女で押絵の技術者だった石田鶴子(秀鶴)の昭和10年代の作品で、神戸市内の個人から寄贈を受けたものです。姫路押絵は、主として羽子板、衝立、色紙などに仕立てられることが多く、姫路押絵において、雛人形は珍しい題材といえます。

さて、本作品は、段を作り、最上段には屏風を立てまわして、押絵の内裏雛を据え、2段目以降に三人官女、五人囃子、随身、仕丁と雪洞(ぼんぼり)、造花製桜橘の二樹、漆塗り金蒔絵の木製道具を置く「段飾り雛」です。

それぞれの押絵人形の下部に竹串が付き、畳上の雛台に竹串を刺して固定する仕組みです。五人囃子は、童子五人組が能楽を演奏してる姿で表わされるのが一般的ですが、本作品は女性たちが華やかに太鼓、小皮、小鼓、笛を演奏し、烏帽子をつけた女性が謡を担当しています。三人仕丁は、笑い上戸、怒り上戸、泣き上戸を表現した京阪型で、関西地方らしい様式を伝えています。

(学芸員・尾崎織女)