「竹龍」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2024年1月

「竹龍」

  • 1920~30年代
  • 年賀状=村松百兎庵コレクション/竹龍=尾崎清次コレクション

中国の伝説において、龍は海中に棲み、必要とあらば天空に飛翔できると考えられていました。人間の力が及ばない天空を自由に翔ける龍は稲妻(雷)の姿で表わされ、雨を自在に降らせる雨神と結びついて稲作の守りともなります。さらに中国の龍といえば、皇帝の象徴でもありました。

さて、現在、2号館の特別陳列コーナーでは、令和6(2024)年の干支「甲辰」を祝い、辰(龍/竜)の郷土玩具を展示していますが、合わせて、郷土玩具収集家として活躍した村松百兎庵(ひゃくとあん)の昭和3(1928)年「戊辰」の年賀状整理帖をご紹介しています。ページを繰ると、大正末期から昭和初期にかけて活躍した郷土玩具収集家をはじめ、当代一流の趣味人(文芸などに熟達した人々)たちから百兎庵のもとへ届いた年賀状がずらりとファイルされているのです。それらのデザインは非常に面白く、川崎巨泉や長谷川小信らの江戸文化を受け継ぐ浮世絵師たちの手によるものや渋谷修ら前衛派の画家たちがデザインしたものなど、当時の豊かで上質な美意識が薫りたつようです。

村松百兎庵の年賀状整理帖(昭和3・1928年「戊辰」)

「戊辰」の年賀状の題材には、中国民間玩具の「竹龍」が繰り返し登場し、戦前の趣味人たちの隣国の玩具や民芸に対する高い関心を示しています。竹片をつなぎ合わせて作り、くねくねと生きているように動く「竹蛇」は、日本やメキシコなどの郷土玩具にも見られますが、「竹龍」となると、中国民間玩具ならではの趣向です。描かれた「竹龍」には、尾部が笛になっているものや胴部の竹片に棒を差して動かし遊ぶものなどが見られ、様々なタイプの玩具が日本にもたらされていたことがわかります。

村松百兎庵の年賀状整理帖(昭和3・1928年「戊辰」)

実際、戦前の郷土玩具研究家・尾崎清次コレクションのなかには、戦前の東北部(遼寧省や吉林省など)で収集された「竹龍」が含まれています。濃紺色や浅葱色地にウロコ模様を丁寧に描いた竹片を針金でつないだもので、尾を持って揺らすと、小さな龍がのどかに身体をくねらせます。遼寧省以北の寒冷地では竹が生育しにくいため、材料となる竹片を他省から持ち込んで、玩具専門職人が製作したものでしょうか。

年賀状に描かれた「竹龍」も旧尾崎コレクションの「竹龍」も大らかで愛らしい表情が魅力的。畏れ多くも皇帝の象徴する龍ですが、民間玩具になった小さな龍は、手のひらのなかで跳ね回り、遊び手の笑顔を誘う楽しさに満ちています。

(学芸員・尾崎織女)