今月のおもちゃ
Toys of this month「鳴き蛙」
●インドネシア・ジャワ島の「鳴き蛙」は、素焼き彩色の蛙形土人形の底面を輪切りにし、切り取った面に小さな葦笛を仕込んだ発音玩具です。高さ6㎝ほどの蛙を手のひらに乗せて、蛙本体と底面をつなぎ合わせた紙製の蛇腹を伸び縮みさせると、クワッ、クワッ、クワッ…♪♪と音を立てます。誰かがこの玩具で遊んでいると、田舎に位置する当館のこと、裏の田んぼで蛙が鳴き出したのかな? 雨が降り出すのかな? と窓の外に目をやったりしてしまうほど蛙の声にそっくりなのです。
●インドネシアの蛙といえば、筆者などは、バリ島のバトゥアンが発祥とされる「フロッグダンス」のコミカルで生き生きとした蛙の舞踊を思い起こすのですが、実際、この国では暮らしのなかに蛙を題材にした造形物が非常に多いようです。それは農耕を糧とする人々にあって、雨との結びつきの強い蛙を神の使いと考えたためでしょう。
●ところで、中国山東省や遼寧省でも「泥叫獅」や「泥叫青蛙」など、土人形に葦笛を仕込んだ発音玩具が見られます。「泥叫青蛙」は、ジャワ島の蛙と同じく、底面に葦笛(また高粱の茎笛)が差してあり、クワァ、クワァと鳴き、「泥叫獅」は、胴の中央に設けられた革製の蛇腹を動かすとホワン、ホワン!と犬の鳴くような音が響きます。どちらもとてもよい音♪♪――魅力的な発音玩具です。
●日本ではどうでしょうか。石川県金沢の戦前の玩具に、兎と亀などが乗った台を伸び縮みさせると音を立てるものがあり、文献を探せば、例えば今から250年前に刊行された江戸の手遊び絵本『江都二色』(安永2・1773年刊)には「屁っぴり猿」の絵が、また明治から大正時代の玩具画集『うなゐの友・第三編』(明治39・1906年刊)には「江戸時代の狸の❝ぽかんぽかん❞」の絵が掲載されています。
●いずれにも台底に小さな笛が入っていて、ふいごのように和紙製の蛇腹を動かすと、それぞれに猿がプゥプゥとオナラをおとすような音、狸がポカンポカンと腹鼓を打つような音を立てるのでしょう。これらの音を想像するだけで思わず笑いがこみあげてくる楽しい江戸玩具を、インドネシアや中国の「鳴き蛙」の仕組みをヒントに再現できないものだろうかと、手のある方々に持ちかけたく思っているところです。
(学芸員・尾崎織女)