今月のおもちゃ
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ちりめん細工「子どもの守り袋“甕割り唐子”」
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現在、1号館では春の企画展「ちりめん細工とつるし飾り」を開催して御好評をいただいておりますが、展示中の古作品の中から、明治・大正時代の人々の子どもたちへの暖かいまなざしが感じられる作品をご紹介します。
かつて、元気に外遊びをはじめた子どもたちの帯には、「守り袋」と呼ばれる巾着が下げられました。『女学裁縫教授書』(金田孝女著/明治27年刊)には、中に守護札とともに薬や住所氏名の書付などが収められ、持ち主の子どもが道に迷ったり、不慮の事故に巻き込まれたりした折に用を為す必需品であったと解説されています。実際に、江戸時代の浮世絵や明治時代の風俗画などに描かれる幼い子どもたちの帯には縁飾りのついた「守り袋」が見えます。この守り袋の裏側は巾着仕立てになっているのですが、表側には“押絵”や“きりばめ”等のお細工物の手法によって、子どもたちの喜ぶ小動物や四季の花々、あるいは宝船や鶴亀などの宝文様、また、物語の一場面などが描かれました。
写真の「守り袋」は、中国北宋時代の歴史家・司馬光(1019~1086)の逸話から“甕割り唐子”をデザインしたものです。司馬光の少年時代のこと、庭で遊んでいるうち、友人が水甕の中に落ちてしまいました。司馬光少年は友人を救けるため、迷うことなく、庭石を抱えてガンと水甕を叩き割り、友人は割れたところから救いだされました。水甕を壊してしまった司馬光少年は、父親のもとに謝りに行きます。「お父さんの言いつけを聴かず、庭で遊んでいて、お父さんの大切な水甕を割って壊してしまいました。申し訳ありません。」と。けれど、壊したわけを聴いた父親は“器は人命より軽し”と少年を褒め、生命の大切さをあらためて説いたと伝わります。
この物語は、江戸時代から明治・大正時代、人々によく知られており、祭礼の山車のからくり人形や郷土人形の題材にもなっています。有名なところでは日光東照宮の陽明門に施された彫刻でしょうか。
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“甕割り唐子”の守り袋は、明治生まれの若い女性が裁縫学校で作ったものです。将来、母親になることを思い描き、子どもの生命を守護するにふさわしいデザインとして、心を込めて大切に縫ったものと思われます。