今月のおもちゃ
Toys of this month「セルロイドのサンタクロース」
日本では最初にサンタクロースが描かれたのは明治31(1898)年のこと。日曜学校の子ども向け教材として「さんたくろう(三太九郎)」(教文館)という読本が発刊されました。その扉絵に描かれた三太九郎は、ロバを従え、右手にクリスマス・ツリー、左手には杖を持っています。どうやらドイツ系の厳格なイメージをもったサンタクロースの影響を受けた絵のようです。やがて大正時代になると、百貨店のクリスマスセールにもサンタクロースは登場するところとなり、多くの日本人が冬の贈り物配達人の存在を知るようになっていきました。
トナカイのひくソリに乗り、リンリンと錫を鳴らして空をかけるサンタクロースのイメージは、19世紀前半にアメリカ合衆国において形成されたものです。ヨーロッパには、立派な司教、農耕神、仮装劇のMC(司会者)、新年の来訪神など、様々な性格をもったサンタクロース像が見られますが、戦後の日本が民主主義とともに受け入れたのは、アメリカ系のサンタクロースでした。
写真は、セルロイド製で、ゼンマイを巻くと鈴を鳴らして走り出します。ソリの底には「made in occupied Japan」と明記され、これが、昭和22から26(1947~1951)年頃の占領下の日本において作られたものだとわかります。
この時代、形も色調もアメリカ人好みにデザインされた玩具が人件費の安い日本の民間工場で生産され、本国のアメリカへ輸出されていました。けれども、アメリカの子ども達のために作られたサンタクロースのうち、いくらかは日本の子どもの手元にも届き、混乱した戦後の冬に温かい灯を点したことでしょう。
私たち日本人とサンタクロースとのかかわりは早、一世紀を超え、「異国のものまね」と一笑できない歴史を、既に、刻んでいるのです。