今月のおもちゃ
Toys of this month「雛料理の器いろいろ」
日本玩具博物館に寄贈される雛飾り一式には、時折、子ども達の手にあわせた小さな食器類が含まれています。寄贈者(明治末~昭和初期生まれ)に少女時代の雛祭りについて伺うと、雛人形そのものよりも、そうした小さな器にまつわる思い出が多く語られるのです。桃の節句に母親が特別に作ってくれた、「まるでままごとのようなお料理がいつまでも心に残っている」と。
一枚目の画像のように、一辺が20cmほどの小さな塗りの膳には、九谷焼の愛らしい器が置かれ、それには、5cmほどのカレイの焼きもの、わけぎのぬた、小さな蛤の吸い物、菜の花をみじん切りにしたまぜご飯などが小さく盛られます。まずは内裏雛にそれらの祝い膳を供えると、あとは、友人を招き、お雛さまと同じお膳で同じものを食べて、踊ったり歌ったり…。
桃の節句にいただく料理は地方によっても様々。春一番の旬の素材が選ばれること、女児の健康と幸せな結婚、子孫繁栄を願う意味をもつ食材が選ばれること、病気をふせぎ、薬効のあるもの、おめでたいとされている料理が作られることなどに共通性があります。
二枚目の画像は、酒器セットで明治時代、神戸の町家の雛祭りに使用されていたものです。古代中国において、この季節に花を咲かせる桃は、魔をはらう霊力を秘めた仙木と考えられ、3月3日の上巳節に、桃花や桃枝を浸した酒を飲むと、百病をのぞき顔色がよくなるとされていました。節句(節供)の概念は、その中国から古代日本に伝えられたもので、以来、3月の節句において、桃花酒は常に重要な位置を占めてきました。
春の花が描かれた愛らしい器(銚子=高さ10.5cm)には、明治時代の少女たちの雛祭りに、一千数百年の時をこえて桃花酒が注がれていたのです。
子どもたちのための器ですが、造形も描彩も細部までしっかりとよい仕事がなされ、小さなサイズがかもし出す可憐な美しさと、年々の祝儀を務めたもののもつ品格が感じられます。
雛料理のための美しく愛らしい器のいろいろは、現在開催中の特別展「雛遊びの世界」でご紹介しています。