草花遊びの世界   | 日本玩具博物館

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学芸室から 2010.06.01

草花遊びの世界  

今年は比較的気温が低い春でしたが、適度な雨にも恵まれて、緑滴る初夏を迎えました。日本玩具博物館は、広葉樹の緑に囲まれており、中でも栴檀(せんだん)の木が数多く自生しています。この木はたくさんの虫や小鳥たちをひき寄せ、四季折々、美しい姿を見せてくれます。今、木々の枝に小さな花が満開となり、快晴の青空を薄紫色に煙らせてしまうほど。その中をアオスジアゲハやツバメが潜り抜けると、爽やかな風にのって薄紫色の花が降ります。近くに寄って花を見つめると、これがなかなか可愛らしいのです。

シャワーのように散る栴檀の花

栴檀の木々に囲まれた当館の駐車場や公園では、今、ヒメジオンや夕凪草、白詰め草、野アザミの真っ盛り。先日、公園に遊びにやってくる近所の女の子たちに、「白詰め草の花輪」の作り方を教えてあげたら、以来、毎日のようにやってきて、草むらの中で、首飾りや花かんむりを編んでいるようです。栴檀のフラワー・シャワーを浴びながら…。きっと、初夏の日のよい思い出になることでしょう。

白詰め草の花冠をつけた女の子

さて、こうした草花の遊びは、長い歴史をもっており、例えば、鎌倉時代の和歌などにも、歌い込まれています。

道のへの 芝生のつばな ぬきためて うなゐこどもの てまもりにせむ(『新撰六帖』より)
日くれぬと 山路をいそぐ うなゐこが 草かり笛の 声ぞさびしき(『夫木和歌抄』より)
うなゐこが すさみに鳴らす 麦笛の 声に驚く 夏のひるふし(『夫木和歌抄』より)
うなゐこが ながれにうくる 笹舟の とまりは冬の 氷なりけり(『夫木和歌抄』より)

「うなゐこ」は小さな子どものこと。「てまもり」はおもちゃを意味しています。これらの和歌からわかるのは、すでに中世の頃には、道端のチガヤをぬき集めて、子どものおもちゃが作られていたこと、小さな子どもが草笛や麦笛を吹き鳴らして遊んでいたこと、700年ほど前の子どもたちも笹舟を知っていたこと…。このような四季の草花遊びは、つかの間、子どもの手を楽しませた後は、草むらや路傍に放置されてしまうような、大変はかないものでありながら、遠い昔の人々の心に直接つながる強い生命力をもった世界であることに気づかされます。

話は変わって……学芸室から近況報告を少し。
今、姫路市内の中学校では『トライやるウィーク』の真っ最中です。生徒さんたちが地元にある様々な事業所に入って職業体験をする一週間に当たっています。当館でも、二人の生徒さんをお受け入れしており、館内の清掃整備やミュージアムショップの商品の仕入れ、受け入れた資料の管理方法など、スタッフと一緒に体験してもらっています。今日の午後は、大正時代から昭和10年代にかけて、上方の郷土玩具趣味人たちの間で交換された年賀状や暑中見舞い状のファイリングの仕事をしてもらいました。

「トライやるウィーク」の中学生たち、絵葉書の整理作業中

この葉書の色々は、昨年末の<ブログ「学芸室から」2009年12月22日>で『村松百兎庵氏の年賀状交換帖・全11冊』としてご報告させていただいたものと同様、能勢泰明氏のご遺族のもとで長い間、大切に保管されていました。この度、新たに寄贈をお受けしたのは、村松百兎庵氏のもとに届いた2500枚に及ぶ年賀状、暑中見舞い状、絵葉書集、私信などで、現在、その分類整理を行っています。「浪花趣味道楽宗」「娯美会」「面茶会」「やつで会」「宝葉会」などに属する趣味人たちの、戦前における賑やかな交流の様子を跡づけるおもしろい資料群。整理が完了しましたら、こちらでもご紹介させていただこうと思っています。

村松百兎庵氏の年賀状交換帖

先般、こうした浪花郷土玩具趣味人の中心に居た「川崎巨泉」氏に焦点をあてた書物が出版されました。『和のおもちゃ絵・川崎巨泉~明治の浮世絵師とナニワ趣味人の世界~』(森田俊雄著・社会評論社刊)。資料集や図版も豊富で、「はんなり」とした「笑いのヘソ」が実感できる楽しい内容です。ご一読なさってみて下さい。

(学芸員・尾崎織女)



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