今月のおもちゃ
Toys of this month「聶家荘の泥叫獅(声を立てる獅子)」
*6号館の「中国民衆玩具の世界」展のなかで、来館者の人気を集めているのが、山東省濰坊市高密県級市の聶家荘で作られる「泥叫獅」と呼ばれる泥塑玩具です。獅子の身体の前後が羊皮紙でつながれており、体内に葦笛が仕込まれているため、両手で前後を持ってアコーディオンを奏するように動かすと、獅子の体内に仕込まれた葦笛が鳴り、ホワンホワンと共鳴します。
*中国経済を支える環渤海経済圏に位置する山東省はまた、風箏(凧)、剪紙(切り紙細工)、年画(新年の幸福を願って各家に貼られる吉祥絵)、花火、布老虎(ぬいぐるみの虎)、そして泥塑玩具などの優れた民間手工芸の里が点在し、民衆がつくる伝承玩具の宝庫としても知られています。なかでも、濰坊市高密県級市は、花火や撲灰年画が古くから盛んで、「泥叫獅」は、ユニークな発音の仕掛けと造形の楽しさで古くから民衆に愛されてきました。
*明代の隆慶年間(1567~72)ころ、聶家の人々は、故郷の河北省より高密市荘一帯に移り住み、農作の合間に節句用の花火玉を作っていました。花火玉は火薬を泥粘土形に包み、中央に紙でつないで製作するのですが、泥粘土形には、獅子や寿星(寿老人)、娃娃(赤ん坊/童子)などがありました。清代、康熙年間(1662~1722)に入ると、それら花火用の泥粘土形をもとに人形や玩具の製作が始まります。やがて、この地域で盛んに描かれていた年画の影響を受けて泥塑玩具の題材が増え、絵付けにも年画の華やかな手法が取り入れられて、白、赤、緑、黄、黒の五色に濃紫や桃色を加えた明るい色調の作品が作られるようになりました。
*「泥叫獅」は、細筆で勢いよく描かれた墨色の目や口に力が宿り、京劇役者の臉譜(隈取り)のような桃色の線のぼかしが、健やかな獅子の姿をのびやかに彩っています。何より、ホワンホワンと低く鳴り響く獅子の声が楽しくて、何度も手に取ってみたくなります。―――葦笛を泥粘土で包むというユニークな発想は、花火の古里ならでは。その形にも音にも花火作りの技と音に対する聶家荘の人々の感性が生かされているようです。
(学芸員・尾崎織女)