<見学レポート>八朔・重陽2017 | 日本玩具博物館

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学芸室から 2017.09.25

<見学レポート>八朔・重陽2017


KIITOの「TOY&DOLL COLLECTION」会場と玩具博物館を行ったり来たりしながら、目の前の課題に忙しく暮らすうちに夏が終わり、早、お彼岸も過ぎていきます。館の駐車場の棗(ナツメ)の木が今秋はたくさんの実をつけてくれました。乾燥棗を作って、端午の粽(ちまき)の具にしようかと今、天日干しの最中です。


筑前芦屋だごびーなとわら馬まつり

ここ数年、私は西日本の海岸部のあちらこちらに伝承される八朔行事――兵庫県室津の「八朔ひな祭り」、広島県宮島の「たのもさん」、岡山県牛窓の“ししこま”がお供えされる「八朔ひな祭り」、香川県丸亀の“団子馬”が贈られる「八朔まつり」など――を興味深く見学してきました。今年も、KIITOの展示替えや来年の企画展準備などの合間を縫って、福岡県遠賀郡芦屋町で開催された「第12回筑前芦屋だごびーなとわら馬まつり」を訪ねることが出来ました。

芦屋の漁師町・浜崎地区

八朔とは旧暦8月1日のこと。郷土玩具の世界で「芦屋の八朔馬」の名で親しまれてきたわら馬は、今も芦屋の人々の手で作り伝えられています。八朔の日、初節句を迎える男児(長男)の祝いにはわら馬が、女児(長女)の祝いには「ダゴビーナ」と呼ばれる米粉を蒸して(近年は茹でて)色付けした団子の細工物が親類縁者や近隣の人々からその子たちの家に届けられます。

催事の期間(今年は9月16日~24日)には、芦屋町中央公民館、芦屋観光協会、国民宿舎、芦屋釜の里、芦屋歴史の里(歴史民俗資料館)の各所で、この地域独特の八朔飾り――大漁旗を背景に数段のひな壇を埋め尽くすわら馬とダゴビーナ(=団子雛)、両脇のホウセンカ(ツマグロ)、笹に金銀の矢――が資料とともに展示されており、そうした施設を巡りながら、来場者や町の方々にいろいろお話を伺いました。お話によると、今、八朔行事を続けているのは、遠賀川が響灘にそそぐ西側に位置する浜崎地区。今年はこの地区の一軒が、ひと月遅れの八朔、9月1日に昔ながらの祝いをなさったそうです。浜崎地区は漁師町。地区の方々のつながりの深さと昔ながらの住環境、行事への愛着の深さが伝承を支えています。

わら馬
芦屋中央公民館の八朔飾り催事の最終日、これらは来場者に配布される。
芦屋歴史の里の展示風景大型の馬は台車に乗せて引き出されたもの(戦後は途絶えた風習)。
平成22年のお祝い
団子雛(ダゴビーナ)

玩具博物館のコレクション展示では、例えば八朔のまつりから「わら馬」だけをすくい上げて紹介することが多いのですが、本来の場所に収まった彼らの姿は生き生きとして美しいものでした。お盆過ぎにはわら馬作りやダンゴビーナ作りを次代に伝承するため、NIさんやIKさんなどの“上手”を中心に町の皆さんが集ってワークショップが開かれているそうです。

芦屋の八朔行事は、国の記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財指定を受けて、平成22年、その歴史をたどり、現状を調査し、行事について様々な角度から考察がなされた素晴らしい報告書『芦屋の八朔行事』が芦屋市教育委員会によって編まれています。芦屋歴史の里(歴史民俗資料館)では同年に制作されたDVDによって八朔行事の様子をわかりやすく拝見することが出来ます。今回の見学では、突然の訪問にもかかわらず、同館の学芸員Y氏が浜崎地区をご案内の上、興味深いお話を聞かせて下さいました。町の行事の位置づけと伝承に、博物館施設の働きがいかに大切か―――。その核となって力を尽くしておられるY氏のお仕事に深い敬意と共感を覚えた芦屋訪問でした。


東京・大宮八幡宮の重陽祭

暦は前後しますが、新暦重陽を過ぎた頃、来年、たばこと塩の博物館で開催する展覧会の打ち合わせに井上館長と上京しました。少し時間が出来たので、杉並区の大宮八幡宮で催行されている重陽節の「菊の着せ(被せ)綿」を拝見することが出来ました。

大宮八幡宮の清涼殿の扉を開けると、大輪の菊花に真綿がたっぷりと着せられ―――白菊には黄色の真綿、黄菊には紅い真綿、紅い菊には白い真綿――、あでやかにまとめられていました。

重陽の日の前夜、咲き香る菊花に真綿を着せ、あくる早朝、菊花の香りを帯びたつゆを含む真綿で身を湿すことで不老長寿を願うこの古式ゆかしい風習は、貴族社会から武家社会、江戸時代後期には庶民の間でも盛んに行われましたが、明治時代初めに途絶えてしまいました。京都では市比売神社や車折神社の重陽祭、また法輪寺では重陽会が行われていますが、このような節句飾りを拝見できる施設は非常に少ないと思われます。人形玩具に表れる意匠や造形に込められた意味を深く知る上でも、四季折々、節句行事へのまなざしはとても大切であると感じます。

(学芸員・尾崎織女)

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