さぼん玉・シャボン玉 | 日本玩具博物館

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学芸室から 2019.04.07

さぼん玉・シャボン玉

卯月四月は野に山に里に街に桜が満開! そして本日2019年4月7日は、太陰暦三月三日にあたります。近世の桃の節句は、桜も花桃も山茱萸も樹々の花が妍を競い、地にはタンポポやスミレが咲き揃う春爛漫の季節感のなかで祝われていたのですね。田舎育ちの私は、旧暦の雛まつりが近づくと、野の草花を摘んで草花雛を作りたくなります。今年は、博物館の庭に明るい黄色を投げるタンポポとギシギシの葉でタンポポ雛を仕立てました。小皿に水を張って据え置くと、花の茎が水を吸い  あげるので、長く室内でも楽しめます。皆さまもぜひ。

タンポポのお雛さま
「子供の遊戯」(P・ブリューゲル)よりシャボン玉遊び
※Wikipedia「子供の遊戯」より


さて、やがて花びらを散らす暖かい東風が吹くと、懐かしい童謡を歌いながらシャボン玉を飛ばしたくなります。……♪シャボン玉飛んだ 屋根まで飛んだ 屋根まで飛んで 壊れて消えた……♪ (「シャボン玉」<作詞=野口雨情・作曲=中山晋平>より)
ポルトガル語で石けんを意味する“シャボン”が、ポルトガルやスペインから日本へ伝わったのは16世紀末、安土桃山時代のことと考えられています。当時のヨーロッパではすでにシャボン玉遊びが行われており、16世紀フランドルの画家、ピーテル・ブリューゲルが描いた有名な絵画「子供の遊戯」の中にも、子供が皿の上でシャボン玉をふくらませている様子が見えます。生まれてもすぐに消えてしまうシャボン玉に人生のはかなさを託した散文や詩も遺されていて、この遊びが子どもにも大人にも広く親しまれていたことがわかります。

「金魚づくし玉や玉や」(歌川国芳画)  

江戸時代前期の文献『洛陽集』(延宝8・1680年)に「空やみどりしゃぼん吹かれて夕雲雀」という美しい句が記されていることから、17世紀には日本でもシャボン玉遊びが始まっていたと想像されます。
江戸時代も後期になると、京阪では神社の祭礼に「吹き玉やさぼん玉、吹けば五色の玉が出る…」と行商人が繰り出し、江戸では「玉や、玉や……」と通りを歩くシャボン玉売りに子どもたちが群がりました。幕末期に活躍した歌川国芳の浮世絵にも擬人化された金魚が水中でシャボン玉を売り歩く(泳ぐ?)姿があり、商品を収めた箱を肩から斜め掛けにし、シャボン液に麦わらをつけてぷくぷくと水玉を吹き出す“金魚の玉や”が愛らしく描かれています。

ただ近世において石けんは貴重品で、ムクロジの果皮や焼いた芋の茎などの自然物が使われていたといいます。そこで去る秋にムクロジを収穫した折、果実に湯を注ぎ、松ヤニを加えてシャボン液を作ってみました(実の中の黒い種は羽根付きの“追羽根”のオモリに使われています。今も!)。
想った以上に泡立ちがよく、麦わらの先を液に浸して静かに吹くと、五色に輝く透明の玉が膨らみました。  江戸時代のシャボン玉遊びはこのようなものであったか…と感慨深く思ったことでした。

ムクロジの実で作ったシャボン玉


明治から大正時代、石けんの国内生産が盛んになるにつれ、シャボン玉遊びは各地へと広がり、大正12年に発表された童謡「シャボン玉」の愛唱とともに、全国の子どもたちに親しまれる春から初夏の遊戯となったのです。

日本経済新聞の土曜日夕刊に、月1回の割合で連載させていただいている「モノごころヒト語り」の4月分(4月6日掲載)に、このシャボン玉遊びを取り上げようと思い、現在、市販されているシャボン玉玩具をいくつか取り寄せました。

合成界面活性剤液の健康への影響についての配慮がなされ、どの商品も安全性をうたっています。どんなものがあるかというと、管先にシャボン液をつけて、もう一方の管から吹き出す従来型に加え、パイプ型や水ピストル型、大道芸のごとく大きな玉を作るリング型など様々な種類が見られます。また、夜の遊びを想定したLEDライト付きや遊園地を思わせる音楽が軽快に流れる商品もありました。とくに、平成時代は電動式バブルマシンのようにシャボン玉を量産できる玩具も多く製品化されており、スイッチひとつで、きらめく大量のバブルが勢いよく飛び出す様子を見ていると、私たちの消費生活が象徴されているというような想いもして、ふと考えさせられます。


平成時代が終わろうとしている今、1号館では、「平成おもちゃ文化史」と題する企画展を開催中です。平成生まれの原田学芸員が、子ども時代を過ごし、思春期から青春時代を生きてきた平成という時代の生活文化について、玩具を通してふり返ってみようと構成や収集も含め、懸命に取り組んだ展示です。―――果たして、日本玩具博物館始まって以来の平成のおもちゃ展は、ご家族そろって楽しんでいただける見どころの多い内容になりました。昨日に続く今日であり、何かが急に変わるものでもありませんが、この節目にあたり、立ち止まって来し方を眺め、行く末の姿を模索してみるのも良い過ごし方ではないかと思います。うららかな春の日を選び、ぜひ、ご来館下さいませ。  

(学芸員・尾崎織女)

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