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学芸室から 2016.09.23

<見学レポート>丸亀の八朔だんご馬

瀬戸内海周辺の町々には、旧暦8月1日(今年は9月1日)に子どもの誕生を祝う様々な形の八朔の節句行事が伝わっています。丸亀や坂出以西の西讃地方では、男の子の初節句に「だんご馬」を作って健やかな成長を願う風習が受け継がれ、今も生き生きと祝われていると聞きます。

JR丸亀駅の八朔馬飾り

去る9月3日、所用で出かけた丸亀。JR丸亀駅構内には、丸亀地方の「八朔だんご馬」飾りが行われていました。だんご馬を中心に武者人形や張り子の虎、鶴亀、だんごの鯛などを並べ飾る独特のしつらえは興味深いものです。
この風習について詳しくお聴きできないものかと、観光協会のオフィスを訪ねました。そして、だんご馬を作る餅店をご紹介いただけたのですが、「八朔当日(9月1日)を過ぎているのでもう今日は見られないだろう」とのこと。けれど、せっかくだからお話だけでも伺えたら、と思い切って「中野餅屋」を訪ねました。

幸運なことに、八朔は過ぎてしまったけれど、明くる日の日曜日、親戚縁者が揃ってお祝いするからと4軒のお家から「八朔だんご馬」や「だんごの鯛」の製作を受けておられ、作るところを見学させてもらえることになったのです。

中野餅屋がお受けになった注文によってだんご馬を作っておられるのは岡雅久さんご夫妻。だんご馬作り40年と伺いました。だんご(米粉:餅粉=9:1)をかぶせて、馬のお尻と脚を作ったあと、前脚と頭部を“木のへら”ひとつで細工していきます。たてがみや尻尾に麻の繊維を挿し、ガラスの目を入れたら奥様にバトンタッチ。絵付けと飾り仕上げは奥様のご担当です。目の前でみるみるうちに素晴らしいだんご馬が出来上がっていきました。一体を仕上げるのに20~30分。蒸したてのだんごのやわらかさが残る時間内に手早く着実に細工していかれる岡さんの手の技に感激しました。
その様子を少し画像でご紹介いたします。

帯締めなどで胴部を飾り、つややかなだんご馬を仕上げる

近い時代で、八朔だんご馬飾りが盛んに行われていたのは昭和40年代から50年代にかけて。7~8人の技術者が3日間ほどの間に1000個を超えるだんご馬を作っておられたといいます。今では4軒の餅屋や菓子屋がだんご馬を受けておられ、岡さんは老人施設や幼稚園、学校などでの実演を含めて、今年は20数体のだんご馬を作られたと伺いました。

八朔の節句前日にだんご馬は母方の実家から届けられ、これを主役に張り子の虎や武者人形、鶴亀、だんごの鯛などが飾られます。だんご馬は、お祝いに集まった親戚縁者に切り分けてふるまわれるそうです。少し口に含ませてもらいましたが、さすがに老舗餅店の蒸したてだんご、とびきりのおいしさでした。

8月下旬から9月にかけて八朔の節句行事を訪ねて瀬戸内沿岸の町々――兵庫県たつの市室津、岡山県瀬戸内市牛窓、広島県福山市鞆の浦、宮島などを訪ねてきましたが、それぞれの町で、地元の行事を心から大切に思われる方々のご努力によって次の世代へとよいものが受け継がれていく場面に接し、その思いの尊さがまた胸に刻まれました。来年の八朔には香川県三豊市仁尾の八朔まつりを見学したいと思っています。

(学芸員・尾崎織女)

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