今冬36回目の「世界のクリスマス展」 | 日本玩具博物館

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学芸室から 2020.10.31

今冬36回目の「世界のクリスマス展」

🍂霜月の声を聞いて気温が急降下し、日本玩具博物館の庭の木々も色づき始めました。皆さまにはお元気でお過ごしでしょうか。 

🍂会期より一週間早く、冬の特別展「世界のクリスマス」をオープンいたしました。当館恒例のクリスマス展は、オーナメントやキャンドルスタンド、クリスマス人形や玩具を通して世界各地のクリスマス風景を描き、この行事の意味を探る試みです。1984年、井上館長が1号館で始めた「世界のクリスマス展」は、今年、実に36回を数えます(1985年に1度、お休みしています)。

世界のクリスマス展2020

🍂私は、大学4年生の晩秋、その始まりの年のクリスマス展をたまたま観覧しました。当時、展示ケースのなかに灯りがなく、イサムノグチのやわらかな雪洞(ぼんぼり)型の室内灯のもと、イタリアのセヴィ社が作るパステルトーンの天使たちやまだ日本ではなじみのなかったドイツやデンマークのアドベントカレンダーなどをゆっくりと観てまわり、「クリスマス」が博物館の展示テーマになること自体に驚き、ちょっとした感動を覚えました。——やがて、そのクリスマス展を自分が担当することになるとは思いもよらず……。

🍂今年、私にとっては30回目のクリスマス展です。30年に亘り、私の秋から冬はクリスマス文化とともにありました。毎年、「クリスマス」に関わる造形や食物や行事などを追いかけるなか、夏至を頂点とする「夏」<生者の季節>と冬至を頂点とする「冬」<死者の季節>とのせめぎあいのなかでヨーロッパの民俗文化が育まれてきたことや、冬が凋落し、夏が生まれる節目に当たるクリスマスに、古来、人々がどれほどの思いをかけてきたかを知りました。
冬至祭、収穫祭、キリスト降誕祭―――これら三つの要素が重なり、さらに各地の冬の民間信仰や手工芸と結びついて、玩具文化の母体ともなってきたクリスマス!——この豊かな祝祭のもつ宗教的な情操を伝えたいという願いのもとに、当館は「世界のクリスマス展」を続けています。

準備中の様子――全体を見ながら細部を整えていきます


🍂本年は、モミの木のクリスマスツリーやクリスマス人形を発達させた「おもちゃの国」ドイツの資料群を種類ごとにとりあげ、世界に定着したクリスマスイメージの源泉について見つめてみようと思っています。また、「北欧」「中欧」「南欧」「東欧」の四つの地域に分けて、ヨーロッパ各地の特徴あるクリスマスの祝い方を探っていきます。

ツヴェッチゲンメンレ・天使と鬼を連れた聖ニコラウス

🍂さて、ここ数年、梱包箱を開けるとき、無事かどうかをドキドキしながら取り出すもののひとつが、「ツヴェッチゲンメンレ(Zwetschgenmännle)」です。それらは、ニュルンベルクのクリスマスマーケット(クリストキンドレスマルクト)で売られるドイツ伝統の木の実人形———頭はクルミ、胴体と手足は干したプラムやイチジクなどをつなぎ合わせて作られたもので、2004年、当館友の会の笹部いく子さんがニュルンベルクやバンベルク、ドレスデンなどのクリスマスマーケットで求め、当館へ寄贈して下さった品々です。かれこれ、16年! ドライフルーツの香りをかすかに漂わせながら、防湿と防虫措置を施した小箱の中から元気に登場してくれました。

2004年製のツヴェッチゲンメンレ――今年の展示にも登場
左後ろ=ニュルンベルク・右後ろ=ドレスデン 手前正面=ニュルンベルク 左奥=バンベルク
ニュルンベルクのクリストキンドレスマルクトのツヴェッチゲンメンレを売る屋台
(撮影=笹部いく子氏 2004年12月)

🍂ツヴェッチゲンメンレは、18世紀後半、ニュルンベルクの針金職人が果物や木の実を針金にさして人形に仕立ててのが始まりと伝わります。クルミに目鼻を描き、布や紙の衣装をつけた農村の夫婦、民俗衣装をつけた少年少女など、様々な種類の人形に仕立てます。クリスマスにこれらを飾ると夫婦円満になるとも伝えられています。ドレスデンでは、煙突掃除夫に仕立てるのが一般的です。

🍂クルミやプラムなど栄養価の高い木の実は、古来、生命力の減退する冬期には欠かせない食べ物で、豊かな収穫を象徴するものと考えられてきたことから、木の実の人形が今もクリスマス飾りとして愛されているのでしょう。「クルミ割り人形」がドイツのクリスマスを象徴する造形であることにも、森の民、ゲルマンの人々の木の実への愛着の深さが感じられます。

ドイツのクリスマス人形展示コーナー

🍂今年のクリスマス展は、6号館東室だけでの展示ですが、心をこめて準備いたしました。温かく厳かな展示室のなかで、クリスマスのエッセンスに触れていただけることと思います。

(学芸員・尾崎 織女)

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