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学芸室から 2021.02.25

世界の民芸玩具のお話に出かける——山内金三郎の『寿寿』のこと

2月19日から21日までの3日間、京都精華大学 伝統産業イノベーションセンターで、自然環境やプロダクトデザイン、教育、職人文化など、工芸をめぐる有形無形の事柄について、多方面から光をあて、未来へどうつなげるかを探るシンポジウム「Things₋工芸から覗く未来」がオンラインで開催されました。2月19日の分科会には尾崎がお招きを受け、緊急事態宣言下、恐る恐る会場へお邪魔いたしました。


2月19日(金)・15時~17時の分科会は「世界の民芸玩具と玩具趣味のネットワーク」と題して、デザイナーの軸原ヨウスケさんと京都精華大学芸術学部教員の中村裕太さんとともに、世界の玩具がもつ普遍性と民族性について、また戦前の趣味人たちがネットワークのなかで、世界の玩具がどのようにとらえられ、どのように愛されていたのかを探りました。それぞれが暮らす地域から生まれた玩具(近代的な概念としての「玩具」ではなく)の造形的な美しさを多くの方々にみつめていただけたら…と。昨秋に大福書林より刊行された『世界の民芸玩具』(尾崎織女著・高見知香写真/軸原ヨウスケ企画デザイン)がつないでくれたご縁です。

お話のなかでとりあげたのが、山内金三郎(神斧)が戦前に制作したおもちゃ絵集『寿寿(joujou)』のことです。大正時代から昭和初期にかけて、当時の趣味人たちの間で、郷土玩具収集ブームがおこり、民芸的な玩具に熱いまなざしが注がれていました。そのような中、大阪生まれの日本画家・山内金三郎(1886~1966)は、世界各地の玩具を描き、その“おもちゃ画集”を『寿寿』(フランス語でおもちゃはjouet/joujouは子ども言葉)と名づけました。描かれた玩具の多くは、浅井忠や小林古径ら海外への留学経験のある画家たちの協力によってももたらされたものです。

会場に勢ぞろいした様々なバージョンの『寿寿』
——軸原ヨウスケさん所蔵の復刻版、千葉孝嗣さん所蔵の大正時代版、当館所蔵の昭和10年代版

『寿寿』には様々なバージョンがあり、木版多色刷り100部限定の大正7年版、また大正11~13年版、そして昭和10年から13年にかけて200部限定で出版された5編――「南洋の人形と玩具」「印度とビルマの人形と玩具」「チェッコスロバキアの人形と玩具」「ロシアの人形と玩具」「ヨーロッパ諸国の人形と玩具」――などがあります。当館の『寿寿』は、大正末から昭和初期の玩具収集家であり研究者であった尾崎清次氏から寄贈を受けたものです。尾崎氏は山内氏と親交があり、『寿寿』についてのやり取りを行った葉書も遺されています。

山内金三郎(神斧)氏から尾崎清次氏に届いた葉書
当館所蔵の大正時代版『寿寿』

これらのなかには明治末期から昭和初期にかけて収集された世界の民芸玩具が収められており、それぞれのイメージを通して、戦前の玩具の姿を知ることができます。また同時に、山内金三郎をとりまく趣味人たちの“フォークアート”を見る目が広く世界へも向けられていたことがよく理解されます。
―――ドイツなどにおいても20世紀初頭は、フォークアートとして、また歴史を語る資料として玩具の造形に注目が集まっていました。当時の趣味人(文化人)たちは、そうした動きにも敏感に呼応し、翻訳書などを通して世界のフォークアートの最前線を知ろうとアンテナを立てていたものと想われます。

いつか、山内が描いたおもちゃ絵のモデルとなった当時の玩具やその伝統を受け継ぐ今の玩具を集めて、世界の民芸玩具へのまなざしを紐解く企画展が開催できたら素敵です。―――分科会の後には、そのような夢の会話も飛び交いました。

(学芸員・尾崎 織女)

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