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学芸室から 2022.09.14

「布老虎」を作る~「中国民衆玩具展」より

日中の日盛りはまだまだ真夏のような暑さですが、陽ざしの色が黄色くなり、夕刻には虫の音が高く聞こえるころとなりました。今年の館の庭は、ヤブランが繁茂し、紅白のミズヒキソウや朱色のノカンゾウを盛り立てるかように、あちらこちらで浅紫色のかわいい花を咲かせています。

今夏から秋、6号館で開催している「中国民衆玩具の世界」は、ご来館の皆さまにご好評をいただいております。展示解説会には、特別に関心をもたれる方や中国の手工芸品を愛好しておられる方々もお越しくださり、毎回、それぞれの地域の玩具や人形にまつわる話の花が咲き誇ります。9月25日(日)、10月9日(日)、16日(日)にも14時30分より、展示解説会を開催いたしますので、どうぞ日時を合わせてご来館くださいませ。

展示室で、特に皆さんの優しいまなざしを集めているのが各地の「布老虎」たちです。本展では、1910~40年代の東北部(現在の遼寧省・吉林省・黒竜江省)や華北部(とくに北京や天津)で日本人の愛好家が収集したもの、文化大革命(1966~76)後の民間美術復興運動のなかでよみがえった1980年代の品々を含めて65点を紹介しています。

1910~40年代、日本人愛好家が中国で収集した布老虎
上段=河北省承徳市(当時の熱河省熱河市)・天津市
下段=遼寧省瀋陽市(当時の奉天省奉天市)・北京市・吉林省長春市(当時の新京市)

中国の民間において、「百獣の王」と崇められる虎は魔除けの力をもつ霊獣であり、尊敬を表す「老」を冠して「老虎」と呼ばれてきました。赤ん坊が誕生して三日目の「洗三」の儀式(赤ん坊に薬草入りの産湯に浸からせ、前世から持ち込まれた災厄などを祓う儀式)や生後一カ月の祝い、また端午の節句においても、布を縫いつないで作る「布老虎」は、子どもたちへの真心のこもった贈り物として各地に伝承されてきました。もともとは、母方の祖母や伯母たちが手作りするものであったのが、手のたつ職人による商品を購入して贈られることも多くなり、布老虎の様式や作り方に、地域的な特徴が付与されていきました。布老虎は乳幼児の寝床に置かれて、枕ともなり、遊び相手ともなってその成長に寄り添いますので、民間の子どもたちが初めて出合う玩具のひとつといえます。

『中国民衆玩具』(当館学芸員・尾崎織女著/高見知香写真/大福書林2022年刊)より、1980年代の民間美術復興運動のなかでよみがえった各地の布老虎たち

獰猛な虎も玩具化されると、ユーモラスで愛嬌のある表情となり、人間味と親しみやすさがあふれ出します。額に記された「王」の字と大きく見開いた目、その眼力を強調する太い眉、首元まで裂けた口と牙の表現がそれぞれに面白く、手にとって正面から見つめると、自然に笑みが湧き上がってきます。身体の模様は手描きやプリント、また、別布がアップリケされたものもあって、じっくり鑑賞すると、一体一体から溢れ出す夢とユーモアにしみじみ心を打たれます。

展示風景「布玩具」より 各地の布老虎たち

そうした展示品に囲まれていると、自分でも布老虎を作ってみたくなりました。そこで中国の手芸サイトなどに紹介されている作り方や型紙を参考に、手元にある古布で布老虎を試作してみることに――。日本人の私が作った❝北京風❞布老虎は目に魔よけの霊力が足らず、当然、民族的風格にかけますが、気持ちを込めて布を縫いつなぎ、せっせと綿を詰めるうち、孫の枕元への贈り物にと手作りをしていた中国民間の女性たちの思いが伝わってきました。

ワークショップなどがもてたらよかったのですが、もしよろしければ、上記画像をご参照いだたき、皆さまも中国の虎を作って楽しんでみてください。

(学芸員・尾崎織女)

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