懐かしきブラジル!~「メキシコと中南米の民芸玩具」の展示品に寄せて | 日本玩具博物館

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学芸室から 2023.10.21

懐かしきブラジル!~「メキシコと中南米の民芸玩具」の展示品に寄せて

1995年は日本玩具博物館にとって深く記憶に残る大切な年です。阪神淡路大震災の年、保管場所を亡くした被災地の雛人形や五月人形をお引き受けしようと奮闘した年、そして日伯修好百周年記念事業組織委員会から依頼を受けて、ブラジルの三都市~サンパウロ・クリチーバ・リオ デ ジャネイロ~に、日本の郷土玩具や節句人形、合計550組をお持ちして「BRINQUEDOS TRADICIONAIS JAPONESES (日本の伝統玩具)」展(1995年5月12日~8月28日)を開催させていただいた年でもありました。
サンパウロ展の会場準備には井上館長が、サンパウロ展の撤収とクリチーバ展の設営には尾崎が、クリチーバ展の撤収とリオデジャネイロ展の会場準備には井上館長が、そしてリオデジャネイロ展の撤収作業には尾崎が渡伯し、展覧会場ともなったSESC(Servício Social Comercio/ブラジル商業関係連盟)の優秀なアート・ディレクターやスタッフの皆さんと一緒に展覧会をつくりあげるというまたとない体験をさせていただいたのでした。


そうして私たちは、展覧会づくりの方法について多くの学びのときを過ごさせていただいたのですが、この得難い機会を存分にわがものとするため、井上館長も私も、それぞれに、展示作業やワークショップ準備、また地元の方々との交流の合間を縫って、SESCスタッフの皆さんのご教示を受けながら、ブラジルの郷土玩具の調査・収集に出掛けたのです。

ブラジルは、先住民文化の上に、植民を行ったポルトガル文化、奴隷として移入されたアフリカ大陸の文化、さらにヨーロッパ、アジア各地からの移民が持ち込んだ様々な文化が連立混合してひとつの国の文化がつくられてきました。この複雑な民族構成と歴史を反映して、ブラジルには実に幅広く豊かな郷土玩具の世界が横たわっています。各地に分散して暮らす先住民がつくる民芸玩具は、FUNAI(国立先住民保護財団)が設置する民芸店やアマゾン川流域に暮らす先住民の文物を扱う専門店などを通して購入し、またブラジル各地で作られている郷土玩具の数々は、日曜市や町の玩具店、博物館施設のミュージアムショップなどを通して入手しました。
「今月のおもちゃ11月」でペルナンブコ州カルアルの土人形を紹介していますが、これはほんの一例で、日本の郷土玩具と同様、この国にも、郷土性に富んだ玩具の産地が点在しているのです。

帰国時には、ペルナンブコ州の小さな土人形たちを壊さないように、重量のあるバイーヤ州カショエラの動物玩具を落さないように、サンタカタリーナ州の繊細なきびがら細工をつぶさないように、パラー州のバルサ材から作られるやわらかな動物玩具や乗り物玩具を傷めないように・・・と神経をとがらせながら、荷物まみれで成田空港に下り立ったのでした。そうして、ブラジルの民芸玩具や近代玩具、また民族文化に関わる資料、約400点を所蔵することとなりました。

これらの公開については、1995年10月に下関市からの依頼により、同市主催の日伯貿易フェアに350点を「ブラジルの民芸玩具展」としてご紹介したのが初めてで、館内では、翌年1996年の企画展「ブラジルの民芸玩具」において、また2002年夏の特別展「太陽の大陸・ラテンアメリカのおもちゃ」のなかでも主だった資料を展示したのですが、以来、約20年、多くの品々は収蔵庫で眠り続けていたことになります。今回の特別展「メキシコと中南米の民芸玩具」に際して、嬉しいことに彼らは、1995年のブラジルの空気をまとい、グッドコンディションで生き生きと登場してくれました。

ブラジル先住民の人形と動物造形、玩具(カラジャ族・タピラぺ族・ジングー族・グアラ二族・カンパ族など)
ブラジルの郷土玩具——左から、カショエラのホロホロチョウと孔雀(バイーヤ州カショエラ)・ベロホリゾンテの鶏を飼う少女(ミナスジェライス州)・カショエラの楽団ー楽隊と踊る人ー(バイーヤ州)・麻の繊維細工の馬(セアラ―州)・風車を回す人(バイーヤ州)

今、あらためて当館のブラジル玩具コレクションを見つめると、どのような文化をも受け入れ、豊かな風土に根付かせ生かしていくブラジルという国の懐の深さを感じます。リオデジャネイロのコルコバードの丘に両腕を広げて立つキリスト像のように――。特別展「メキシコと中南米の民芸玩具」はあと1週間で会期終了ですが、ご来館の皆さまには、メキシコやペルーなどの品々と合わせて、ブラジルの展示コーナーもゆっくりとご覧いただきたく思います。

(学芸員・尾崎織女)

(追記)資料として、当館館報「おもちゃと遊び」NO.15のブラジル展に関わる記事を掲載いたします。小さな文字で恐縮ですが、よろしければ拡大してご覧ください。

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