日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2014.11.15

「正月のおもちゃ展」オープン~遠藤欣一郎先生の絵双六~

6号館の特別展「世界クリスマス紀行」に続き、1号館では企画展「正月のおもちゃ」がオープンしました。日本の正月風景に美を与え、静かな新春の祝いに 、生き生きとした活気をもたらしてきた独楽まわし、凧あげ、羽根つき、カルタとり、双六遊び…。本展は、それら室内外の新春遊戯に登場する玩具を集めたもので、冬季の日本玩具博物館には欠かせないコレクション展示のひとつです。
今回は、久しぶりに、江戸時代後期の絵双六(将棋盤や碁盤にも似た盤上遊戯としての「盤双六」に対して、絵が描かれた紙製の双六をさします。)や明治時代の歌留多(かるた)を展示いたしました。

特に「絵双六」のゾーンでは、江戸時代後期、弘化5(1848)年の「浄土双六」や「佛法双六・證果増進之図」といった絵双六の前身となる貴重な資料、さらに、浮世絵師・一立齋廣重(=歌川廣重/1797~1858年)の「浮世道中膝栗毛滑稽双六」や「参宮上京道中一覧双六」、一雄齋國輝(=二代歌川國輝/1830~1874年)の「倭風俗太子双六」、一猛斎芳虎(=歌川芳虎/生没年不詳・江戸末期~明治中期)の「三十六歌仙双六」など、美しい錦絵の双六をご紹介しています。

「浄土双六」 江戸後期・弘化5(1848)年/菊屋喜兵衛(京都寺町) 版

■「浮世道中膝栗毛滑稽双六」は、江戸から京へと上る道中を描いた廣重の有名な双六です。“膝栗毛”とは、人の膝を栗毛(=馬)の代わりに旅をすること、つまり徒歩による旅行を意味します。享和2(1802)年、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』が発刊され、野次さん喜多さんの膝栗毛による珍道中が、人々の旅の空への憧れをかきたてました。けれど、当時、江戸幕府は町人の自由旅行を著しく制限していたので、裕福な境遇にあっても庶民の旅は一生に一度あるかないか…。そんな時代、道中双六に託する人々の夢の大きさは、現在 の私たちには計り知れないものがあるでしょう。

「浮世道中膝栗毛滑稽双六」 一立齋廣重(歌川広重)画 /江戸後期/ 恵美寿屋庄七(江戸照降町)板
「参宮上京道中一覧双六 」 一立齋廣重(歌川広重)画 /江戸後期/蔦屋吉蔵(江戸南伝馬町)板

■「倭風俗太子双六」の太子とはシッダールタ(仏陀)のこと。浄飯王、摩耶婦人、耶輸陀羅姫、提婆達多、鹿野女など、登場するのはすべて仏陀の生涯に表れる人々で、それを当時の人気役者に当てています。振りだしや上がりには、雪をいただくヒマラヤ連峰が見え、インドらしい建物も想像で描かれています。「一・ししがたけ 二・きちじょう 三・夜刀軍士、四・目蓮、五・はんとく、六・花仙」と賽の目数によって進める場所が指定される“飛びまわり”双六です。仏教世話の主人公である太子は、ここでは繊細なやさ男で、花々が咲き乱れる異国に対する憧れは、人気役者への憧れとあいまって、江戸の人々を夢幻の世界へと誘ったことでしょう。 


遠藤欣一郎先生のこと

さて、このような江戸時代の絵双六は、1999年に寄贈を受けた故・遠藤欣一郎氏のコレクションの中のものです。
遠藤先生は大正元(1911)年生まれ。旧九州帝国大学卒業後、父上の経営されるアポロ社(教育玩具を企画製造するメーカー)で美術印刷の仕事に就いておられましたが、戦時中は日本印刷文化協会へ出向して印刷業界の戦時下統制、資材設備などの業務を担当されました。終戦後、会社再建を始められた時、「おもちゃはどこまでもおもちゃで、飽きれ ば捨てられるものと決まっていたことが無償に悔しかったから、せめて自分の作りだすものは、子ども達の良い友達であり、良い遊び相手であることを念願した」と著書にも述べておられますが、特に紙製の教育玩具の製作、普及に力を注いでこられました。そのような企業人でありながら一方で、世界的な視野に立った玩具の基礎研究を続け、『玩具の系譜』『続・玩具の系譜』(日本玩具資料館発行・1988年/1990年)などの名著を遺されました。その著作のための資料として手元に収集された絵双六や歌留多の数々をご遺族が当館へと寄せて下さったのです。

「三十六歌仙双六」など絵双六展示風景

日本玩具博物館と遠藤欣一郎先生との出会いは、1992年、館報『おもちゃと遊び』11号をお届けしたことがきっかけでした。以来、ご逝去される1998年までの短い歳月の中で、遠藤先生は、当館の調査収集、研究活動に広い視点を与えて下さり、また他の博物館と協力してひとつの展覧会をつくりあげる仕事を影でプロデュースされるなど、私たち後進を思いやりながら、大きな心でご指導下さいました。
「尾崎さん、よい仕事はよいネットワークから生まれますよ。あなたはね、玩具研究の世界に良きネットワークをもたらす人になって下さい。」――手をしっかり握ってそんなお教えをいただいた日が昨日のことのように思い出されます。

明治時代の」「歌留多」展示コーナー

今回の企画展でご紹介する絵双六や歌留多には、2001年、遠藤欣一郎氏の研究業績を顕彰する意味を秘めて「双六と歌留多」と題する企画を開催して以来、収蔵庫で眠らせていた資料が含まれています。展示する機会を長くもてなかったこと、遠藤先生に申し訳なく思いながら、この機会を得て、多くの方々に双六や歌留多が伝える生活文化の奥行の深さをご紹介していけたら、また美術や演劇、遊戯史などの研究分野の方々に広くお教えをいただけたら……と思っています。

来年の干支の動物、未(=羊)の郷土玩具も勢ぞろいして、皆様をお待ちしております。ぜひ、ご来場下さいませ。  (尾崎織女)

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