端午の節句の郷土人形~全国に共通する造形~ | 日本玩具博物館

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学芸室から 2026.04.19

端午の節句の郷土人形~全国に共通する造形~

鯉の連凧や鯉のぼりが泳ぐランプの家に若葉風がわたり、中庭にドウダンツツジもシロヤマブキもシャガもホウチャクソウも満開です。6号館の特別展「ふるさとの節句人形展」は会期より一週間早く、爽やかにオープンしました! 


当館は1974(昭和49)年、井上重義館長の郷土玩具コレクションを紹介する展示館として開設されましたが、日本近世の造形文化を今に伝える郷土玩具に加え、節句文化の豊かさを表現する伝統人形、また明治時代以降の近代玩具や世界の民族的な玩具など、いくつものコレクション群を構築して、館内外での展示活動を活発に展開してきました。節句を題材にした春や初夏の伝統人形展はすっかり恒例となりましたが、開館50周年を過ぎた本年は❝原点回帰❞を期して、上巳(桃の節句)、端午、七夕の節句に、かつて日本各地で自給的に作られ、庶民が楽しみながら飾っていた郷土人形や郷土玩具の世界を取り上げています。

「ふるさとの節句人形」展示風景


江戸時代の後半に入り、農閑期を利用して、日本各地の産地で自給自足的に作られ始めた郷土人形の中心にあったのは、京都・伏見の作品群です。直接的、間接的に「伏見の影響を受けていない産地がない」といわれるほどに、伏見土人形の存在は大きなものでした。たとえば、伏見土人形から雌型を取り、地元の粘土を使って型抜きで複製されることで全国へと土人形作りが広まっていったと考えられています。江戸後期の農学者・大蔵永常は、『広益国産考』(1842-59)において、農家の副業として(すでに各地で行われていたことではありましたが)、伏見人形の複製を推奨し、挿絵入りで詳しく作り方を指南しています。

2025年、京都精華大学ギャラリーTerra-Sで開催された企画展「スケッチーズ~八瀬の石黒さん家から見た世界」に際して作成した郷土玩具の系統樹図❝『広益国産考』から考える伏見人形の転用と影響❞(企画:軸原ヨウスケ/作図・尾崎織女/デザイン・玩具工藝社:軸原ヨウスケ&長友真昭)

本年の展示でご紹介する武者や金太郎の土人形もまた、伏見を複製し、産地独自のアイディアを足し算して(あるいは引き算して)全国に展開した郷土人形の一分野です。さらに東北地方では、宮城県仙台の堤土人形が中心となって伏見の影響下に周辺の産地を育て、中部地方では名古屋や三河の土人形が、中国地方では出雲や長浜、松江の土人形が、九州地方では古博多土人形が中心となって、同じ生活文化圏への転用を促しました。模倣と創造の様子は、鎧をまとった大将と纏(まとい/馬印)をもつ従者、神功皇后と武内宿禰、太閤秀吉と加藤清正、牛若丸と弁慶などの組み物、また熊と金太郎、鯉と金太郎、松や竹と金太郎、米俵や釣鐘と金太郎など、動物や植物、器物を配した金太郎における造形の共通性のなかに確認することができます。一方で、産地それぞれに独自の味わいがあり、地域性や作者の個性もまたほほえましく感じられます。

造形の共通性と独自性 ❝松引き金太郎❞ 伏見土人形、葛畑土人形(兵庫県養父市)、宮ノ峡土人形(広島県三次市)

本展の端午の節句コーナーでは、地域の枠を取り払い、造形の共通性に焦点を当てて展示しています。土俗的でほのぼのとした郷土の武者や金太郎人形の表情をお楽しみいただき、造形の比較を通して、イメージの複製と地域性、日本の郷土玩具文化におけるバリエーションの豊かさを味わっていただければと思います。

(学芸員・尾崎織女)

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