日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2012.04.26

中国の端午節~伊藤三朗コレクションより~ 

日本玩具博物館は、去る4月16日、四半世紀にわたって親しく交友のあった中国民間玩具研究家・伊藤三朗さんから、氏が生涯をかけて蒐集されたコレクションの寄贈を受けました。その大半が文化大革命(1966年から約10年間)以降、中国各地で復興を果たした民間の美術工芸的な玩具や人形です。

中国民間玩具の受け入れ整理風景

約850項目、総点数にすると1,000点に及ぶ民間玩具(日本でいう「郷土玩具」は、彼の地では「民間玩具」と呼ばれます)について、伊藤さんは、一点一点、すべて撮影して登録カードをお作り下さり、また、中国美術学会民間工芸美術委員会の徐芸乙氏(南京芸術学院教授)の監修を得て、資料名称や産地、またそれぞれの特筆事項を解説してもらわれた上で、私どもにお預け下さったのです。どんなに立派な品であっても、その品についてのデータがなければ、博物学的価値が高いとは言えません。品物にはその出自来歴を示すデータがあって、博物館の第一次資料となりうるのです。日本玩具博物館は、これまでにこのような大型コレクションをいくつも頂戴してきましたが、コレクション受け入れ時に、もっとも重要でもっとも大変なのが、データづくりの作業です。この骨の折れる仕事をきちんと整えられた上で寄贈下さった伊藤さんの、コレクションに対する愛情と責任感を、私たちはとても尊敬し、深く感謝申しあげたく思います。また、私どもの博物館を選んで寄贈下さった伊藤さんのお心に添うべく、心して務めを果たしていきたいと思います。

伊藤三郎中国民間玩具コレクションカード

コレクションが手元に届けられた4月16日から一週間かけて、伊藤さんのコレクション・データに照らし合わせた後、当館の収蔵方法に従って、産地ごと、材質ごとの分類整理を完了したところです。学芸員にとっては日課のような仕事であり、モノの数の多さと付き合うのには慣れてはいますが、一週間べったり、モノばかりの世界に籠もりっきりになると、どうかすると、自分の暮らすこの世の方が異世界に思われてくるから不思議です。
当館には、日中戦争以前に尾崎清次氏が蒐集された、古い時代の中国玩具300点のコレクションがあり、また、中国民間玩具研究の第一人者であった故・李寸松先生のご協力を得るなどして、当館が独自に収集した資料の300点を所蔵しています。伊藤コレクションの内容については、すでに顔見知りのものもあり、繰り返し展示品としてあつかう親しい間柄の資料も少なからずありましたが、一方で、収蔵資料の中、産地不明であったものや由来がわからなかったものが伊藤コレクションの解説を得て、特定できたものも数多くありました。

河南省の“泥泥狗”や“泥咕咕”の土俗的な造形、陝西省の泥動物の目のさめるような彩色、甘粛省の端午の香包における古代文明の薫り、山西省や陝西省の“布老虎”の愛らしさ、山東省の“棒棒人”の素朴さ、天津や北京の“紙鳶”の麗しさ……それらが全体としてかもし出す世界は、まさに、古きよき中国大陸の縮図です。1966年から約10年間にわたって中国全土に吹き荒れた文化大革命。その文化破壊と混乱によって荒廃をきわめた土地土地に、1980年代、再び地方文化を育て、花を咲かせた中国の人々の不屈の精神を想います。

日本の郷土玩具と同じように、暮らしの中から誕生した中国の民間玩具には、材質にも造形にも産地ごとに特徴があります。また、元宵節(旧暦1月15日の小正月)の灯籠玩具や、端午節(旧暦5月5日)の虎の玩具、仲秋節(旧暦8月15日)の兎玩具などのように、節句や祭礼にちなんで登場する玩具や人形、飾りものなども数多く見られます。

ここで少し、端午節のことをご紹介したいと思います。中国において端午節といえば、春節(旧暦の正月)に次ぐ大きなおまつりです。その昔は、どこの家でも宝剣をかたどったショウブやヨモギを戸口に飾り、薬草で室内をいぶして疫病神の退散を期しました。夜になると、眠っている子どもの腕や指に輪にした色糸をかけます。そうすると邪気が払われると考えられていました。また、この日には、龍船競争が行われたり、粽を食べる習慣もあり、日本の端午の行事は、中国の影響を受けたものであることがよく理解できます。

今ではそんな風習も地方に少し残されている程度だと聞きますが、かつて、端午節が巡ってくると、中国の子どもたちは、額に虎を表す「王」の文字を、頬から耳には、魔除けの力がある雄黄酒を指先につけて線をひいてもらいました。虎頭の帽子に虎顔の鞋、虎模様の上着を身にまとい、子どもたちは小さな虎になるのです。そして、端午節には虎の玩具がつきものでした。布で作られたもの、土や紙で出来たもの・・・何もかも虎ばかり! 中でも、ぬいぐるみの虎「布老虎(プーラオフー)」は広く親しまれてきました。中国各地の布老虎をずらり集めて眺めてみると、百獣の王に似合わぬ愛らしい表情とデフォルメされた造形が特徴的です。こうして虎尽くしの一日を過ごした子どもたちは、その夜、虎形の枕で眠るのです。
中国で「端午の虎、五毒を踏みつける」という言葉はよく知られています。五毒とは、ムカデ、サソリ、クモ、ガマ、ヘビのことで、強い精力をもった恐るべき存在を意味します。それらを平然とふみつける虎は、魔を追い払う霊獣というわけでしょう。端午の虎尽くしには、虎のもつ霊力にあやかり、強く健やかな子どもに育ってほしいという親たちの願いが込められています。

美術的にも、玩具の動く工夫や音の出る仕組みについても、何をとっても、他のどこにもないユニークさ。それは、この国の人々にしか作り得ないもの。幸福を願う造形、子どもの健康を祝福する造形、宇宙の色を身の内にすべてとりこんだ造形……それらの中にあふれる民族の風格というものについて、隣国の私たちはもちろん、本国の方々にも今一度、ふり返って眺めていただきたく思います。企画を温め続けて、来秋の企画展にて広くご紹介したいと思っておりますので、ご期待下さいませ。(尾崎織女)

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