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blog手作りのクリスマスオーナメント*その2―スパイスクッキー
●ガラスや木や陶器などから作られたツリー飾りを見慣れていると、お菓子や食べ物がツリーに飾られるというのは、とても新鮮でめずらしいことのように思われます。けれど、近世後期のドイツでモミの木に飾られていたのは、今日のような民芸品でも工業製品でもありませんでした。
●パンの文化史の専門家で、クリスマス菓子の研究でも知られる舟田詠子氏のご著書『誰も知らないクリスマス』(朝日新聞社/1999年刊)によると、17世紀から18世紀後半のドイツにおいて、クリスマスツリーにつるされていたものは、木の実、リンゴ、レープクーヘン(生地に蜂蜜、香辛料、オレンジやレモンの皮、ナッツ類などをふんだんに混ぜ込んた焼き菓子)、色紙、金箔飾り(ティンゼルのことでしょうか)、梨、オブラーテン(=ホスチア)など。クリスマスが終わる公現節(エピファニー)には、子どもたちがゆすって落として食べるものであり、それらは豊かな実りを象徴するものだったと考えられます。
●当館の世界のクリスマスコレクションの中には、ヨーロッパ各地に伝承されるいくつかのお菓子のオーナメントがあります。
●なかでも珍しいのが「シュプリンゲルレ(Springerle)」と呼ばれるドイツのオーナメントです。精緻な模様が彫刻された木型に生地を押して作るもので、古城都市、ローテンブルク・オプ・デア・タウバーに伝わる古い木型によって復刻された品々―――当館と交流のあるヒラ・シュッツェさんからいただきました。スプリンゲルレという名前は「小さな騎士」を意味すると言われ、14世紀の南東ドイツあたりが起源だとか。古い木型に表れる絵柄は、聖書の物語からとられた宗教的なモチーフが多く、17~8世紀には、騎士や貴婦人を紋章のように彫り込んだ木型が流行したようです。そのほか、幸福、愛情、豊穣、結婚などをあらわす象徴的な模様も好まれたといいます。繊細な絵が真っ白な粘土板にレリーフされたような姿形が特徴ですが、子どもたちがここに様々な色を塗りこんで、華やかなオーナメントに仕上げます。二つの穴に紐を通して、クリスマスツリーにつり下げるのです。
●本年は、ポーランドのお菓子のオーナメントを新たに展示しています。ピエルニク(Piernik)と呼ばれ、ライ麦粉、小麦粉にシナモン、ジンジャー、アニス、クローヴなどのスパイスがたっぷり入ったクッキーで、型紙を生地に当てて切り抜いて作られています。ポーランド中北部、トルンがピエルニクの町として知られています。チェコのペルニークにも似て、繊細な飾りがほどこされたものも作られていると聞きますが、展示品は家庭らしい素朴さと温かさが魅力的です。
――友の会の笹部いく子さんから寄贈いただきました
<スパイスクッキーのオーナメントを作りましょう>
●皆さまのご家庭でもクリスマスには様々な趣向でお菓子を手作りされることと思います。型抜きでジンジャークッキーなどをお作りになられるとき、オーブンに入れる前、ストローでクッキーに穴を開ければ、クリスマスツリーにつるす紐通しになります。簡単なものをご紹介したいと思います。
●例えば、『ハンガリーのクリスマス』(マンディ・ハシモト・レナ著/Bahar/2010年刊)より、「mézeskalács」のレシピを参考に、スパイスクッキーのオーナメントを作ってみました。
*材料……小麦粉250g・全卵1個・はちみつ125g・バター50g・ブラウンシュガー50g・ベーキングパウダー小さじ1・香辛料(シナモン、ジンジャー、クローブ、カルダモンなど)大さじ1・レモンの皮のすりおろし少々
*作り方
❶はちみつ、バター、ブラウンシュガーを小鍋で温めて溶かします。
❷小麦粉、ベーキングパウダーをふるい、香辛料やレモンの皮のすりおろしを合わせ、さらに❶を加えます。
❸よく溶いた卵を加えてよく混ぜ、冷蔵庫で一晩寝かせます。
❹寝かせた生地を麺棒などで3㎜程度にのばして、型抜きします。
❺ストローなどで、型抜きした生地に穴をあけ、爪楊枝などで模様をつけたら、180℃のオーブンで4~5分焼きましょう。
●出来上がったスパイスクッキーのオーナメントをクリスマスツリーに飾りました。近世ドイツのクリスマスツリーに思いをはせて、姫リンゴの生り口を紐で結び、リンゴのオーナメントを合わせています。―――いかがでしょうか。
クッキーについては、それぞれにお好みのレシピをお持ちのことと思います。飾り紐を通す穴をあけるだけで、楽しいクリスマスツリーになることでしょう。ぜひ、お試しくださいませ。
(学芸員・尾崎 織女)
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