日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2014.02.07

節分・立春・雛まつり

立春を過ぎて冷え込みが厳しくなりましたが、玩具博物館の庭では、蠟梅に続いてマンサクが開花を始めました。小雪がちらつく中、ふるえながら咲く木の花は凛として美しいものですね。

柊鰯・サイト(サイト焼き)・鬼追い~

すでに過ぎてしまいましたが、皆さまは節分をどのように過ごされましたか。“鬼は外、福は内” と唱えながら、豆まきをなさったでしょうか。私は、明治生まれの祖母が節分の度に行っていた“鬼やらい”のまじないを思い出し、今年、焼き鰯の頭と柊を合わせて、「柊鰯(ひいらぎいわし)」を仕立ててみました。柊の葉のトゲで目を突かれるのを鬼は恐れ、また焼き鰯のにおいの強さに鬼が退散していくためと言われます。古い町の軒下にときどき見かけることがありますが、すでに行う家庭が少なくなった節分のまじないのひとつでしょうか。皆さまのご家庭では、節分、門口や玄関先に「柊鰯」を付けられますか。

ランプの家の柊鰯(やいかがし)

さて、節分といえば「立春」の前日だけをさすものと思い込んでいたところ、本来は、二十四節気のうち、季節の始まりを示す四つの節目――立春・立夏・立秋・立冬――これらすべての前日をさし、“季節を分ける”ことを意味する暦日のことだ、と知ったときには驚きました。立春前日の節 分だけが特に重要視されるようになったのは、立春が一年の始まりと考えられたためだと言われています。
日本玩具博物館の近く、香寺町中仁野の八幡神社の境内では氏子の方々の手によって、節分の夜、「サイト(サイト焼き)=サイトウ(柴灯)」という火まつりが行われます。立春が一年の始まりであれば、節分はいわば大晦日。地元の古老によると、年越しにあたって、神社の枯れ枝や枝や柴を集めて、神前で燃やすのがサイト。この火にあたると、風邪をひかない、夏負けしないと言われます。ただの焚き火のようにみえて、それは意味の深い火です。

香寺町八幡神社のサイト(サイトウ)

火の粉を散らしながらパチパチと音をたてて燃える木々をみながら、私は「ユールの丸太」や「ビュッシュ・ド・ノエル」、またクリスマスの暖炉で燃やされる丸太のことを連想しました。
ヨーロッパでも、一年の終わり、太陽が死ぬ冬至の夜に、木の実を育てる樹木の丸太を焼き、明くる年の豊かならんことが期されます。火の粉や煤や灰にも樹木の霊が宿るとして、それらは薬になるほど大事に扱われてきました。「サイトヤキ」は、小正月のトンドと習合している地域も多いようですが、香寺町中仁野においては、遠い昔の「一年最後の火」を伝える行事なのだと感じました。ヨーロッパのクリスマス周辺にあらわれる行事と私たちの新春行事―――そのココロはとてもよく似ていると今夜もあらためて思ったことです。

前年の災厄をはらい、清らかな空間、清らかな身体で新年を迎えるために行われる節分行事としてよく知られているのが“追儺(ついな)”です。追儺は、飛鳥時代、さらに奈良時代の宮中でもすでに盛大に行われていたものと言われます。桃の木の弓で葦の矢を射、桃の木の杖で地を叩き、大きな物音を立て、大声をあげ、呪文を唱えて、鬼を人々の暮らしの外へと追い出します。やがて諸国の社寺へと受け継がれた追儺の儀式は、庶民層へも伝わって、元旦前日の大晦日や立春前日の節分における「追儺式」「鬼追い式」として各地に定着し、“豆まき”による「鬼追い」とも結びついていったと説明されます。
姫路市の奥座敷、増位山随願寺(ますいさんずいがんじ)では、鎌倉時代からの伝統をもつ「鬼追い式」が伝承されています。『 播州増位山随願寺集記 』(1302年)によれば、当時、流行した疫病をはらうため、後二条天皇の勅定によって始まったと伝わります。鬼追い式には、毘沙門天(びしゃもんてん)の化身の赤鬼、不動明王(ふどうみょうおう)の化身の青鬼、薬師如来(やくしにょらい)の化身の空鬼、さらに空鬼につく十六の子鬼が登場して、ほら貝と鐘の音にあわせて踊りを披露します。赤鬼、青鬼、空鬼には古くから伝わる木彫面を使いますが、子鬼たちは、姫路張子の赤鬼面、青鬼面をかぶって愛らしいいでたちです。地元の伝統行事に、これまた地元に伝わる郷土玩具の面が使用されることはとても素晴らしいことと思います。

増位山随願寺の「鬼追い」赤鬼と青鬼
姫路張子の鬼面をつけた子鬼

兵庫県下では、神戸市の長田神社や姫路市の書写山圓教寺をはじめ、大晦日から節分にかけて、各地で鬼を追う行事がもたれていますので、お住まいの近くの社寺にお尋ねの上、一度、ご見学になられてはいかがでしょうか。

雛まつり

立春を過ぎると、雛まつりの季節。旧暦で祝われる桃の節句はまだまだ先ですが、「そろそろお雛さまを飾ろうか」と話しておられるご家庭も多いのではないでしょうか。日本玩具博物館では、すでに恒例の「雛まつり展」をオープンし、ひと足早く、雛まつりのうきうきとした気分を楽しんでいただいております。
今年のテーマは「江戸の雛・京阪の雛」。今も生活文化の諸相を語るとき、必ずといっていいほど、引き合いにだされる「関東と関西の違い」――比較して楽しいこのテーマを雛人形の世界に持ち込みました。生活文化の豊かさは、地域による違いがもたらすものと考えます。ぜひ、ご来場いただき、たとえば、雛人形の中、江戸美人と京美人を見比べながら、好きな人形を探していただき、けれど最後には「みな、それぞれに美しい」と雛を愛でていただければ幸いです。

                             (学芸員・尾崎織女)

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