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如月雨水、雛日和
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■新暦桃の節句が近づき、博物館の空にマンサク、地に福寿草が満開です。春恒例の特別展「雛まつり」――今年は“まちの雛・ふるさとの雛”と題して、雛飾りの地域的バリエーションをご紹介する展示を広げています。
■江戸の町人文化が活況を呈してくる安永年間(1772-81)頃になると、雛人形製作が京から江戸へと飛び火し、財力のある町衆の間に賑やかな雛まつりが行われるようになります。江戸好みの「古今雛」が人気を博すると、京坂(阪)でも京坂好みの古今雛が作られ、江戸後期には三都(江戸・京・大坂)を中心に多くの名品が誕生しました。これらは庶民が描く夢の界を表現するもので、宮中や公家社会で飾られる有職故実に忠実な雛人形とは異なることから、“まちの雛”と総称されます。
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■ 幕末から明治時代にかけて、大都市部の雛まつりは地方の町々、農村や山村へもどんどんと拡大し、それぞれの土地では、身近にある材料を使って素朴な人形作りが盛んになりました。みなが一心に自分たちの雛人形を求めたのです。良質の粘土がとれる農村部では型抜きで土雛が作られ、反故の和紙などがたくさん出る城下町などでは張り子の雛が、また地方の町々では残り裂を利用した押絵の人形が初節句に贈答されました。江戸末期から昭和初期にかけて、 私たちの国には、土地ごとにユニークな雛飾りがあり、想像する以上に彩り豊かな雛まつりが行われていました。
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■6号館東室では、福島県三春張り子の雛飾り、会津若松や島根県出雲地方の雛天神、兵庫県氷上町の天神を上段にすえる土雛飾り、大分県日田の歌舞伎の名場面を押絵人形に仕立てた「おきあげ雛」、岩手県水沢の押絵の「くくり雛」など、雛飾りのイメージをくつがえすような“ふるさとの雛”が勢揃いしています。
■また、4号館常設展示室にも広島県三次の雛飾りを展示しました。明治中期から大正時代、三次地方で焼か れた土人形がぎっしりと並んでいます。天神を上段に、二段目以降には金太郎や武者などの節句物、立ち娘や花魁などの女物、歴史物語の主人公、恵比寿・大黒などの縁起物、童子、力士…と様々な土人形で構成する雛飾りは、ひと月遅れの4月3日に男の子も女の子も揃って祝う節句まつりの華ともいうべきものでした。こうした土俗的な世界をなつかしくご覧下さる方々がおられる一方、若い世代には祖先の造形感覚や美意識を新鮮に感じていただけるのではないかと思います。
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■緋毛氈の上に老若男女がやさしいまなざしを注ぐ雛日和――日曜日ごとにワークショップを開いています。子どもたちが楽しげに折り紙のお雛さまを作り、解説会では大人の皆さんが熱心に雛人形のお話をお聴き下さっています。弥生三月も日曜日ごとに展示解説会を開いていますし、3月21日(木・祝)の13時30分からは、これまた春恒例の「貝合わせ」を楽しむワークショップを予定しておりますので、ぜひ、お時間を合わせてご来館下さいませ。
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(学芸員・尾崎織女)
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